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ラブストーリー

オクターヴ上げて奏でる[6] きらきら星

   

 相原奏子のいない毎日は、僕にとって月の見えない夜のようだ。
 その雲の裏側で光る月を、僕は知っている。
 月明かりの道標が突如、黒い雲に遮られると虫たちは街灯のまやかしに吸い込まれ、そこから抜け出せずに群がっている。
 満員電車に押し込まれている僕も、それと同じようなものだ。
 あの日から一週間。奏子さんを見ることは無かった。いつも二人で乗っていた電車にも彼女はいない。
 僕の渡したPHSも電源を切ったままの様子で、ポケベルにメッセージを入れても返信のないまま、彼女はいつしか幻のようになっていた。
 今度こそ、彼女を想う気持ちは本物だ。彼女のいない毎日を、僕は失望と共に過ごしている。
 ノストラダムスは一九九九年七の月に、世界は滅亡すると予言している。それが本当の話ならば、あと二年ほど相原奏子に会えない世界で生きることは、すでに滅びたようなもの。
 昨晩は、悪魔に抱かれる奏子さんの夢を見た。童話の世界から抜け出したような紫色の悪魔が笑みを浮かべながら、裸の奏子さんを腕の中に飲み込む。その奏子さんに表情はなく、悪魔の手にされるままの様子。
 そこには、僕の声だけが響いていた。やめろ、やめろと。
 誰に抱かれたことのある奏子さんでも、今の僕には関係のないことだと思っている。しかし妄想は僕の胸を締め付ける。
 彼女の裸など見たことが無い。しかし、その体には抱かれた男の痕が残っているように思える。
 彼女を今すぐ抱きしめたい、それは性欲を満たすためではなく、彼女の体についた痕を、僕の手で抱きしめたい。強く、強く抱きしめて、僕の色に塗り替えたい。

 教室からは、崇の机が無くなった。ぽかんと空いた場所は誰も埋めようとせずに、横田先生も「後ろの奴が、前に詰めろ」と、ぎこちなく言う。
 崇を幽霊扱いして気持ち悪がっている奴等を見たくはないから、僕がその場所に机を移動した。
 奏子さんの言葉を思い出す。崇は地獄に落ちると。…
『神様、どうか崇を天国に……』なんて言葉は、届くものか分からない。だが、彼が苦行に耐えられず、この世に逃げ込んできた時に、彼の座る場所を置いておこう。そんなことを思っていた。
『なぁ崇、どうすればいと思う?』
 そんな問い掛けをすれば、『自分で考えろ、バカ。』なんて言葉が聞こえる気がしていた。

 

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