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ラブストーリー

オクターヴ上げて奏でる[6] きらきら星

   

 コンクールの校内選考が行われる日を彩乃さんから聞いた。内輪で執り行われることだから、外部の者が演奏を聴くととはできないらしい。しかし、奏子さんがここで外されるわけがない。
『モンノトコロデ』『マツテマス アキラ』
 この学校の校舎からはピアノだけでなく、バイオリンやトランペットなど、色々な楽器の音が聴こえてくる。
 ピアノコンクールの校内選考は終わったのだろうか、校門からはぞろぞろと下校する生徒達の姿が見える。
「何やってるの?」と声を掛けられ、驚いて振り向いてみれば彩乃さんがいた。
「奏子でしょ?多分もうすぐ来るよ。結果は来てからのお楽しみね。」
 彩乃さんは相変わらずの笑顔を見せながら、手を振って去って行った。結果なんて聞かなくても分かる。
 あの相原奏子だぞ。僕にとっては、ショパンよりも、モーツァルトよりも、相原奏子なんだ。
 土曜の夕方、世の高校生たちは明日の休日を理由にして、今頃街へ繰り出している。
 ファストフード店では、ポテトをつまみながらケラケラと笑っていたり、フリータイムのカラオケでは、歌ったことのない歌を一番だけ歌ってみたり、ゲームセンターのプリクラでは、どの角度が可愛く写るか試してみたり。
 そんな日常の中にも、未来には世の中へ名前を残すような人がいるのだろうかと、奏子さんに出会ってからは思うことがある。
 音楽室の壁には、モーツァルト、ショパン、ベートーヴェン、確か眼鏡をかけた日本人の絵もあった。……誰だっけ、……あぁ、滝廉太郎だ。
 そして僕の来世で壁に飾られる人が今、前から歩いて来る。目が合うと、彼女は口を大きくあけている。来世の僕は音楽室でこの人の肖像画を見て、今の顔を思い出すだろうか。
「……どうしたの。」
 校門の向こう側、立ち止まる奏子さんの横を、他の生徒たちが通り過ぎて行く。
「あなたを抱きしめに来た。」
 通り過ぎる女子が、奏子さんと僕を見てヒソヒソと話している。声を出して笑う連中もいる。確かに僕がしていることは、ブラウン管の中だけですることだ。けれど、そんなことはかまわない。抱きしめたい。……奏子さんをこの手で、強く抱きしめたい。……ただ、そう思うだけの衝動。
「ここ、学校よ?」
「だから?」
「恥ずかしくない?」
「全然。」
「そう、……じゃあ、いいよ。」
 僕は奏子さんを強く抱きしめた。小さくて細い体を抱きしめると、彼女の感触が伝わってくる。
 通り過ぎる人々の群れは、より一層のざわつきを見せている。あの美人まで、帰ったふりして見ていやがる。そういう所は弟そっくりだ。……

 

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