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ラブストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・2

   

 六人の犠牲者がクリスマスイヴの夜に無残にも報道された。通り魔のサンタクロースの帽子をかぶった犯人は自殺し、動機は不明のままこの悲惨な事件は終わった。

 犯人はどこの誰かまったく身許がわからなかった。家出捜索の届けも出ておらず一致しなかった。

 最終的に警察病院で遺体を保存することになった。遺族も現れず安置されたが、数日もすれば埋葬となるだろう。

 多くの人が悲しみに暮れながらやりきれない激情を胸にとどめ、誰に当たり散らすわけでもないが関係者はただ泣き崩れるだけだった。

 テレビの報道番組で昨夜の犠牲者の名前が伝えられていった。

 さかえ 沙良さら(二十七歳)。俺の彼女だ。

「だれの許可でこんな顔写真とプロフィールを公表しているんだ…」

 俺は感情を抑えられなかった。怒りのままテレビ画面を破壊したい衝動をギリギリおさえこんだ。

 沙良の両親が許可したのか。悲惨な犠牲者は世間に知られる必要がある。弔いの黙とうを捧げて欲しい、せめてのものだろう。

「だが、俺は胸が苦しい…」

 あとの五人の名前はまったくしらない。年齢は若い男たちだった。どこの誰かはしらないが沙良とおなじく巻き込まれた犠牲者だ。

 そして、怨恨たる相手の名前と顔が発表された。

 白咲しろさき 天楼てんお、二十四歳だという。

 クリスマスイヴの惨劇の犯人。無差別銃乱射を起こした通り魔殺人鬼は自害した謎多き男。

 警察の捜査でもこの犯人の身許が不明のままだったのに、なぜ名前と年齢が突然──。

 報道番組の司会者が言っていた。

「各報道局に犯人がどこのだれかタレコミの電話がありました。信ぴょう性はなに一つないが、わざわざ機械を通した声を変えた人物からの情報提供で、警察にも通報したところ通信会社でその名前で読み仮名と漢字名で携帯電話の契約があるか調べたところ、これがヒットしました。免許証の顔写真も付いていたので同一人物と判明。住居は都内区画内で、職業は無職、過去の経歴はいっさいなしで交友関係も不明、親族はいないとのこと。区役所で住民票の本籍から調査しようとしたが、それも同区内で今は廃ビルが建っているだけで、素性を掴むにはまだまだ時間がかかりそうということです──」

 短髪の頬がこけたいかにも悪人の顔だ。目が細く吊りあがってこれまで一度も微笑んだことさえなさそうな薄い口だ。世間を貶し嘲笑うような平べったい鼻。それがこの男の印象だ。

「こいつがそうなのか…、ほんとうに…憎たらしい、ぜったいに忘れない」

 ギリギリと歯ぎしりを響かせながら眉間が痛くなるほどテレビ画面の犯人を睨みつけていた。恨みを晴らすこともできない。罵声も浴びせることもできない。なにもできない。その悔しさは固く握られた拳が物語っている。

 人間は生きているからこそ相手にできる。愛する気持ちも相手がいるから返ってくる。恨む気持ちも相手がいるから発散できる。これから俺はどうしたらいいんだ…。

「…」

 俺の名前を誰かが呼んだように思った。

 時城ときしろ 朔護さくご、二十八歳。昨日の夜の出来事を最高の一夜にするため練りに練ったクリスマスイヴのプランを完遂したと思ったのも束の間、すべてをぶち壊された。

 どうにか復讐してやりたい。沙良の恨みを晴らしてやりたい。幸せになれる人生を奪った犯人を殺してやりたい。

「ぐっ、ぐぅ」

 もう死んでしまった最悪な存在に、有り余る怒りが身体の中で破裂しそうだった。

 

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