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伝奇ロマン

怪盗プラチナ仮面 27

   

「随分とお待ちになりまして?」

 マレーネは待ち構えていた男たちに微笑み、力を解き放った。

 惨劇が始まった。

 

[ フランクフルト市中心部(市営霊園と旧市街地、黒線の幹線道路は2018年の現況)]


 

墓地

 

 翌日、吾輩たちはマイン川北の旧市街地でマレーネの衣装を買った。レースの襟飾りがついた水色のドレスと麦わら帽子、そして白いパラソルと、合計で100マルク以上を散財した。何しろパリからの、恐らく大勢でお出ましになる客人を出迎えるのだ。最高の装いで臨まなければ礼を失するというものだろう。

 試着室から出てきたマレーネはこの上もなく輝いて見えた。

「どう?」
「すごい。まるで女王様だな」
「エディを騎士に叙任してあげようか?」
「そいつは光栄だ! 今後とも変わらぬ忠誠を誓います」
「よろしい。父と子と精霊の名において汝を騎士に……」

 跪いた吾輩は剣の代わりにパラソルで両肩を打たれ、晴れてマレーネの騎士となった。

 我々はいったんアパートに戻り、買ったばかりの服に着替えて再び旧市街地に繰り出した。レストランで昼食を取り、カフェで時間を潰しているうちに日は傾いてきた。
 

 カフェのテラス席から見えるバルトロメウス大聖堂の尖塔が、午後の太陽を背に黒く浮かび上がっている。暑さは衰えていなかったが、マレーネの前に置かれたカップの紅茶は半分ほど残って冷えていた。吾輩の前には2杯目のコーヒーがあった。

 夕刻になって人通りも多くなった。様々な装いの、幾百の表情を抱えた男女が目の前を行き交っていく。程なく世界が終わりを迎えるような気分で吾輩はそれを眺めていた。

 買ったばかりの帽子を頭に載せ、丸テーブルを挟んで正面に座ったマレーネもまた、頬杖を突いて雑踏に視線を投げている。その横顔に、吾輩はいつもの幻視とは違う不思議な既視感を感じた。

 そんな物思いを察したかのように、マレーネが顔をこちらに向けた。

「あと何時間?」

 懐から時計を出して確かめると、午後4時15分。刻限まで5時間近くあった。

「慌てることはないさ。こっちは招待されたんだから」
「でもあいつら、もう町の中をうろついてるんだろうね」
「そうだな」
「このへん歩いてて、私たちにも気づいてるんじゃない?」
「気になるか?」

 マレーネが目を下に向けて「なるわけないじゃん」と笑う。

「だけど、どうしてユダヤ人墓地なんだろ」

 口の端に微笑をたたえたマレーネの表情は、吾輩の目には成熟した貴婦人のように堂々として見えた。幼児から抜け出たばかりのような一年前の面影は微塵も無かった。

「十字架の前ではできないことなんだろう」
「どんな?」
「悪いことさ」
「主がお許しにはならないような?」
「うん」
「そっか。あいつらもキリスト教徒なんだろうね、きっと」

 吾輩はマレーネの顔から目を逸らし、コーヒーの椀を持ち上げた。

「ねえエディ。『奇跡』って信じる?」
「何だいきなり」
 

 

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