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ラブ・ファンタジー

ユメとアイ【後編】

   

ユメとアイは旅に出て、カミが告げた白い岩を、戦いが始まる寸前に持ち帰り、戦いを止めさせる。

 

 
 その夜。
 ユメが母親に、旅に出る事を伝えた。
 しかし、カミに言われたように、カミの事と白い岩の事は、話しても通じないと考えて、伏せておいた。
“アイとは、西の集落の長の娘なのですか?”
“はい、二人で必ず戻って来て、戦いを止めさせます”
 母親は日に日に逞しく成長して、言動も大人びて行く我が息子を信じていた。

“何か考えがあるのですね?あなたが旅に出る事は父さまには内緒にしておきます。尤も父さまは、戦いの事で毎日毎晩集会所に入り浸りだから気付かないでしょう。あなたの馬2頭を連れて行きなさい。何かの役に立つでしょう”
“ありがとうございます。行って来ます”
 優しく微笑む母親にユメは深々と頭を下げた。
 同じ頃、アイも、ユメと同様に、母親の承諾を得ていた。

 太陽の先端が地平に視え始める頃、林で待っているユメの元にアイが駆け寄った。
 馬を連れて行くなら白い岩をもっとたくさん持って帰る事が出来ると考えて、羊の皮袋8枚、二人の母親が用意してくれた6日分の食料を馬の背に積む。
“よし、行こう”
 二人は馬に跨がり、頷き合って出発する。
 二人とも旅に出るのは初めてであった。
 前途は全くの未知。
 二人の心の隅に恐怖も宿っていたが、二人は強い信念を抱いていた。

 昇る朝日を背に2人はただひたすら馬を駆って西に向かった。
 村に戻るのは早い方が良い。
 草原を越え、川の浅瀬を渡り、カミが告げた岩山を探して西へ。
 陽が沈むと、岩場の崖を背にし、肉食動物に襲われないように焚き火を前にして交代で休む。
“ユメ、先に眠って。私が視張ってるから”
“判った。何かあったら起こせ”
 ユメが石ヤリ、石オノ、弓矢を傍に並べて横になる。

“でもあの人の言う事は本当かな?”
 ユメがぽつりと呟く。
“私は信じるわ。だって、本当も何も、今の私たちはあの人の言う事を信じるしかないわ”
 アイがユメを諭す。
“そうじゃ。アイは良い娘じゃ”
 カミは結局2人、いや、アイが心配で2人の後を着いて来ていた。

 朝を迎え、2人は出発する。
 太陽の位置で方角を確かめながら馬を駆り、砂漠を越え、山を迂回して、西へ。
 そして、太陽が3度目に昇った頃、ついにカミが告げたような、深い草原の中に草木が一本も生えていない小高い丘に行き当たる。
 横手に廻ると中腹に洞窟があった。
 廻り道すれば馬も連れて斜面を登れる。
 火をかざして洞窟に入る。

 洞窟の奥近くに差し掛かると、岩肌全体が真っ白になった。
“あった!”
“これだわ!”
 ユメが石オノで削り取った白い岩を、アイが傍に転がっている石で砕いて皮袋に詰める。
 8つの皮袋をいっぱいにして、二人は帰途に就こうと洞窟の外に出る。
 しかし、夢中で作業をしていて、時を忘れていた。

 外は既に太陽が沈み、漆黒の闇に包まれていた。
 早く帰りたかったが、闇の中を歩く訳には行かない。
 翌朝出立する事にする。
“この洞窟で焚き火をしていたら獣も襲って来ないはずだ。今夜は一緒に眠ろう”

 焚火の傍で、横になった二人が視詰め合った。
 ユメが手を伸ばし、初めてアイを抱き寄せた。
 アイはユメに寄り添い、胸に貌を埋めた。
 そして二人は結ばれた。

 アイが好きだったカミは悲しんだが、元よりどうしようもなかった。
 愛し合う二人を視ないように洞窟の外に出て、自分たちが創った天の川銀河を眺めていた。 

 翌朝、昇る太陽に向かって出発する。
 帰り道は判る。
 皮袋4個ずつを馬の背に積み、自分たちは馬を曳いて歩く。
 早く戻って戦いを止めなければ。
 二人の脚が無意識に速くなる。
 しかし、重い荷物を乗せた馬の脚取りは遅くなっていた。
 その分、集落に戻るのが遅れるが、仕方がなかった。
 馬が歩けなくなったら、万事休す、である。

 5度目の太陽が昇って暫くして、空が真っ黒になった。
“雨が降るわ。どうしよう”
“これを濡らしたらいけないんだ”
 カミが忠告した事だった。
 草原の真っただ中、雨が降って来たら、二人が雨を避ける場所はない。
 雨の一滴が、二人の頬を濡らす。
 二人はせめて馬の背から革袋を下ろして、馬の腹の下に置き、さらに二人でその上に覆い被さる。

 雨が降り始めた。
 二人の躰の隙間から革袋に雨が当たる。
“だめだ。濡れる”
“いやー。誰か助けてー”
 アイが叫んだ瞬間、雨雲が一気に拡散し、青空が現れた。
“どうしたんだろう?急に”
“判らない。でも、良かったわ。濡れなくて”
 二人が貌を視合わせて微笑んだ。

 カミが、低気圧の中心で、高気圧を発生させ、低気圧を崩壊させたのだった。
 カミは、アイが自分に助けを求めたのだ、と勝手に解釈して喜んだ。
 しかし、自分が雨を止めた事にアイが気付いていない事にがっかりした。

 二人の旅が続く。
 そして、新しい月が地平線に沈もうとしていた。
 もう少しで、という処で7度目の夜が明け始める。
 太陽が昇ると、男たちの戦いが始まる。
 ユメが1頭の馬の背から皮袋を全部降ろした。

“アイ、馬を走らせて帰れ。村中の女子供、年寄りを全部集めろ。おれの村もだ。1番林に近い家がおれの家だ。母上がいる。女子供を集めさせろ。女子供、年寄りの願いで、おれが帰るまで戦うのを待たせろ”

 

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ユメとアイ 第1話第2話

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