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君がいない世界なら、僕は生きていけない・4

   2018年1月19日  

 恩師の羽場戸先生は、パラレルワールド否定派だった。独自の理論で並行世界はないと断定した。

 だが、証明はできていない。あくまで科学的見地だった。

 しかし、その可能性を見いだしたものが、公表していないがその研究室にある。

 俺も卒業間際に小耳にはさんだ。

「タイムトラベルが成功しそうだ」

 夢物語の続きかと思ったが、いまはそれにすがりつこうと六年ぶりに再会した。

 すべては愛する沙良を取り戻すため。過去へ行きたい。

 しかし俺はあまりにもそれが貸してもらいたく切望した。

 だが、恩師は…

 

 羽場戸先生は電気工学の講義のとき、パラレルワールドのことを口走った。なぜ突然空想的なことをいいだしたのか意味がわからなかった。仮にも科学を生粋にしている先生だ。現実的なことに執着して研究をしているその目には、本当は別の世界を夢見ていたのかもしれない。

「独自の見解では並行世界は存在しない」と否定した。

 つまりパラレルワールドはないと否定したのだ。

 時間はあくまでひとつの川の流れのように上から下へ、過去から未来へ進行するものだというのが先生の見解だった。

 熱の入れ方についていけず、俺は常にそっけなく耳だけを傾けていながらも鼓膜には蓋をしていた。

「だから人間は今を生きている時間をだいじにしなければならない。無駄はない。指一本無駄な動きをしただけでおおきく未来が変わるかもしれない。けがをしたりね…」

『なら俺は多くの人間が同じ方向を向いて歩む側を生きる』それが研究員ではなく科学者でもない、普通の会社勤めとして結論をだした。

 その答えのせいで、愛する沙良を失ったのかもしれない。今の俺は無力に等しく、恩師に頼るしかなかった。

 しかし、先生の考え方はきわめて少数派であるのは間違いない。多くの学者がパラレルワールドの可能性を、あるだろうと結論づけている。立証もしないくせに、同意しているのは面倒だからだ。誰もそんな世界を垣間見ようとはしない。

 だから否定もできなければ肯定もできない。想像の域をでない話題を科学者は論じたがるのだ。

 孤独に否定していても埒があかない。だから自ら過去へいってなにかを変えて未来にもどったときに別の未来が存在するのであれば、羽場戸先生の理論は見事に砕かれた結果になる。

「それもひとつの、科学者の末路だ」といって笑い飛ばしていた。

「身を持って体感する」それが先生の教えで真実だった。

 先生は、そうだね、と頷いた。

 研究に没頭して自分が五十歳になったことすら気づかずにいる恩師だ。恋人も作らず家族のことも忘れて時間移動の研究を調べているくせに、自身は時間に疎い人間であるというその矛盾を俺は在学のときに指摘した。

 羽場戸は大爆笑していた。「きみは鋭いね」初めて自分を指摘している生徒が現れたからだ。これまで聞き流すか一緒になって笑うかして意見の衝突を避ける生徒ばかりだった。しかしそんな先生を俺はいつも否定していた。非科学的なことに熱中している恩師を見下してもいた。長年かかっても立証できない情熱を注ぐ科学者として否定している。一度も尊敬したことはなかった。

 夢見がちな男のところへ訪問することになろうとは人生はわからないものだ。本音は腹の底にヘドロが溜まり胃もたれをしている。嫌悪しかない。顔を見るのも声をきくのも視界にはいることも俺は嫌悪でしかない。それでも藁にすがる思いで一人の命を救うために現実味を失った世界で対話をしなければならない。

 先生を頼ってきたのは、あの事件をなかったことにしたいからだ。

 クリスマスイヴの悲劇。それは多くの涙を流す大惨事となったからだ。

 

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君がいない世界なら、僕は生きていけない 第1話第2話第3話第4話第5話第6話第7話第8話第9話第10話第11話第12話

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