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異世界ファンタジー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第39話「踏み出す一歩」

   2018年1月22日  

「今までありがとう。ずっと泣いてばかりでごめんなさい。でも、もうあなた達の死に……涙はしないわ。この先は、皆の思い出と共に行くから」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
【毎週更新】

第39話「踏み出す一歩」

 

 
 恐る恐る手に取った服を広げてみる。自分の体に合わせて、鏡の方に視線を向けると、違和感なく体が隠れた。

「ぴったり……」

 私のサイズで作られたこの道具一式は、恐らくスウェナが時間の合間を見て、用意してくれたものだろう。
 隣が気になり目をやると、シアンに渡された箱の中身も私同様に旅道具だった。驚く私達二人を見て、スウェナは両手を合わせて喜んだ。

「よかった! 二人共サイズは大丈夫そうねっ」
「スウェナさん……これは一体……」

 いつの間に揃えていたのだろうか。どんな思いで彼女がこれ等を箱に詰めたのか、私には計り知れないものがある。

「これから寒くなればマントも必要になるし、山道を走ることになれば、滑りにくい靴を履いた方がいいでしょう? 何があるかわからないもの。せめて……役に立つものを二人に用意したかったの。『母親』として」
「母……親……」

 私の母、エルーナ妃が生きていたら、スウェナのように心配しながらも送り出してくれただろうか。それとも、泣きながら止めただろうか。
 ――――いや、母様は泣きもしないし、止めもしない。父様の時だってそうだった。彼女の体は弱くても、心は誰よりも強かったから。

「母にこうしてもらったことがないので、よくわからないけれど……」

 いつも、身支度をする暇もなく、心構えをすることも出来ずに、追われるようにして歩き続けてきた。『送り出される』ということは初めてなのだ。こんな時、どう笑ったらいいのだろう。

「……でも、凄く嬉しいです。ありがとうございます」

 そうだ。意識して笑わなくてもいいのだ。心から喜ぶことが出来れば、こうしていつの間にか口元は緩むのだから。

「この服の……青色。大好きな色なんです」

 生誕式のあの日、私は陛下の選んだ青いドレスを着て、ルイスの隣に並んでいた。プランジットに咲いていた花も、青色だった。この青は、幸せな記憶を思い出させる色。

「エリザちゃんによく似合う色だわ」

 ルイスが見たら、そう言ってくれたかもしれない。そう思ったら、ぽたぽたと涙が溢れてきて、もらったばかりの服に染みが広がった。

「ありがとな、母さん」
「これであんたもマシな男に見えるでしょ!」
「どういう意味だよッ!」

 静かに泣く私に気づき、二人が私へ目を向ける。
 

 

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