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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・5

   2018年1月24日  

 恩師のタイムトラベルについての理屈を何度も聞かされたことを思い出した。そしてパラレルワールドは存在しないと羽場戸先生は否定した。

 一つしかない世界で未来や過去を行き来したとき、もし影響を与えてしまったときに、なんらかの神の裁きが下るのではないか、それを畏れていた恩師であった。

 今の俺にはそんな余裕はなかった。しかも先生は未来や過去を行き来している。

 タイムトラベルができる球体がある。それを使って愛する沙良を救済したい。

 俺は自分の手を汚してでも叶えるつもりだった。そしてその反動は起きてしまった。

 使い方もわからずだが、棚にあと二つの球体と使用方法の手帳を発見した。

 俺はこれで過去へ飛ぶ。沙良を救うために…

 

 未来を覗き見するのは影響がないかもしれない。これから来る未来だ。人は意識せずにも未来を知っていながらも知らないようで同じ行動をとる。しかし過去を変えてしまったら未来の選択肢が文字通り枝分かれしてしまい、よけいな未来を生みだしかねない。それはすなわち並行世界。パラレルワールドのことだ。

 羽場戸先生はこの理論を否定し、独自の理論を認めさせることを恐れた。他人の幸福よりも自身の理想が優先だった。科学者としての固執だろう。それだけ真剣に挑んでいる人生だ。理解はできるがバカげた笑い話にしかならない。

 悲しみに暮れる時間軸で生きているはずが別の時間軸に進む未来を作りだし、幸福になれる時間軸の未来で生きることを阻んだ。悲しみに暮れる時間軸の世界は突如としておのれが消滅してしまうだろう。それは破滅の世界になるということだ。正確な時間軸をもとにもどそうと神の手が下される。

 幸福の時間軸に逃げた世界はやはり再び失う。それは彼女だ。そしてまた過去へ向かう。そしてまた再び彼女を失う。何度も何度も同じ悲しみを乗り越えて抗うこともできずに未来を開拓して生きていかなければならない。

 それが運命だ。もしもというパラレルワールドは存在しない。いま生きている世界が一つだけだ。

 先生はそう言いたかったようだ。教え子に時間を狂わすという神の裁きが下らない道を歩ませてはならない。と示したかったのだろう。

 だが、そうは言わせなかった。

 俺は仁王立ちで佇んでいた。「素直に許可をくれればいいものを…」

 羽場戸先生がどこでどうやって発見した、もしくは発明したのかはわからないがしっかりと俺の手の中には先生が大事にしている球体を握りしめていた。

 飛びたいのは過去。日時をイメージすることで、誤差はあるが飛べるということだ。

 そうすれば球体が反応する。

「もう少し、情報を聞いてからにすればよかった」

 ふと視界のなかに埃がはりついている棚が視点に止まった。

 相変わらず掃除はそっちのけのようだ。なぜか気になったかというと握りしめている球体のようなものが、ちらっと埃まみれのガラス面から球体の輪郭が浮かんでいたからだ。

 スモークのように隠しているつもりなのかもしれない。灯台下暗し。

 眼を凝らさなければ見逃していただろう。

 棚を開くとガラス面についた埃がほろほろと落ちた。

 やはり球体だった。あと二つも。

 そして手帳が。

「この手帳…、使い方について詳細が書き込んである」

 俺の背後では先生が床に突っ伏していた。

 ペラペラと捲って大まかだが過去にいける方法だけで十分だった。それだけでいい。

「可能性の道が開いた」

 俺は眼をつぶり球体をしっかりと握りしめた。そして頭の中でイメージした。

 沙良と先月のクリスマスイヴの日へと飛ぶ。

 球体は発光し、包まれるように俺の魂だけを連れて消えた。

 

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