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ラブストーリー

恋の足音1

   

毎年、2月に行われる『札幌雪祭り』。
その会場に数年ぶりに足を運んだ桃花は、行ってみて気付いた。
子供の頃から見てきている雪像に、今更たいした感動もない事に。
生まれも育ちも札幌なのだから仕方が無いかと思いながら、飲食店が並んでいる場所に行って、食べ物だけを買って、帰ってから食べようと地下鉄に向かったのだが・・・。

 

 まだ少し、春には遠い2月の札幌。
 寒さも厳しい日が何日か続いた上旬に、地元テレビでは、毎年行われている『札幌雪祭り』に中継が出ていた。
 阿部桃花は、仕事を上がり、その様子を夜のニュースで眺めていた。
 桃花は、生まれも育ちも札幌だ。小さい頃から、ずっと身近にあった祭りの一つであり、何度も足を運んでいる。ただ、社会人になってからは、わざわざ人を誘って、あの人混みの中に行く気にもなれなくて、ここ数年は、こうしてテレビでの中継を眺めているだけだった。
 一日の疲れを癒す為の晩酌をしながら、ビールの缶が空になった所で、重い腰を上げてお風呂に入りに行った桃花は、最後に行った雪祭りの事を思い出していた。
 最後に行ったのは、短大の時だ。その時一緒に行ったのは、その当時の彼氏。
 四年制大学に通っていた男で、桃花が社会人になってすぐ、生活時間が合わなくて別れてしまった。別れを告げられた訳じゃなく、桃花の方が直ぐに疲れてしまったのだ。
 学生の内には割と自由になる時間も、社会人になればそうもいかず、どれだけ規則正しい生活が大事になるかという事を、肌で感じてしまった為、自由気ままな男に疲れてしまったのだった。
 その後は、恋の予感もなかった訳じゃないが、突っ走れるほど勢いも無くなっている自分に気付いている桃花は、そのタイミングを逃して、今も一人でいる。
 ただ、別にそれを逃した事を悔いている訳でもなく、その時逃したのは、何か理由があるのだと、普段は気にもしない神のお告げなんだと思っていた。

 浴室を出て、タオルで濡れた髪を拭きながら、つけっぱなしになっていたテレビを消し、電気を落としてベッドに潜り込む。窓際に置いてあるベッドのシーツは、ひんやりと冷たい。その冷たさに身体を丸めながら、布団を被り眠りに落ちた。

 出勤の準備をしながら、朝のニュースをたまに視界に入れていると、昨夜見た雪祭りの映像がまた流れた。こう何度も同じ映像を見ていると、久しぶりに行くのも悪くないのかと思えてしまう。
 行って来いといわれている気もしてくるから、不思議だ。
 鞄を肩に掛けてテレビを消した桃花は、外に出て降っている雪を見上げて、白い息を吐いた。

 昼休みになってから、社員同士の会話にも雪祭りの話が出て、桃花は顔を緩めた。

「行くの?皆」

 いつもの顔ぶれで弁当を食べながら、何気なく桃花は聞いてみた。もしかして、誰かが一緒に行く人を探しているかもしれないと思ったのだ。

「一応。彼氏と」
「学生時代の友達からメールきてさぁ」
「姪っ子にせがまれててさぁ・・・」

 それぞれに行く者がいる事に少しだけガッカリしながら、桃花が苦笑していると、同じ質問をされて溜息吐いた。

「いや、面倒だし。人混み嫌いだからさ」

 桃花の意見には、皆が頷きながらも、自分達は仕方が無いという風な顔で項垂れていた。

 定時に仕事を上がり、自分のアパートに向かう間、桃花は昼間言った事に口をへの字に曲げていた。
 行こうと思っているのに、それと逆の事を言ってしまった。これで、行ってから誰かと顔を合わせたなら、何て言われるかと思うと眉まで下がってしまう。
 長い溜息を吐いて部屋の鍵を開けた桃花は、まぁいいかと、誰も居ない部屋に小さく「ただいま」と呟いて靴を脱いだ。

 

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