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SF・ファンタジー・ホラー

マスクエリア 第五覆面特区〜二章 崩壊の足音(6)

   

幾多の困難を乗り越え、新月と佳代は、脱出用の潜水艇に辿り着いた。
半ば予測された、対潜水艦網も敷かれておらず、脱出も簡単と思われたところで、船内の操縦室から、酒を飲んだ一人の男が出てきた。その男は、新月たちがとてもよく知る、しかし、この場で居合わせるとは到底思えない人間だった。

 

 再び走り出した新月と佳代の周囲を、喧騒が取り巻きだしていた。
 どうやら、先遣隊がやられたという情報が、本隊にも伝わったらしく、この隠し通路の存在が露見してしまったようだ。足音や声が次第に近づき、大きくなっていく。
「どうやら、すっかり囲まれたようね、兄貴。大西さんたちじゃ、防ぎきれないかも」
 佳代は、新月よりももっと詳細に、敵の戦力を見抜いている。「かも」などという曖昧な語尾を使っているのは、恐らく、新月と自分自身に対しての、気休めでしかない。「協定」を守っている紳士的な相手とは言え、囲まれたら、逃げる手段は存在しないだろう。
「敵がなだれ込んで来ないうちに、潜水艇に逃げ込もう! さすがに、海の中までは追って来られないだろう」
 「妹」を励ますように口を開いた新月もまた、自分の言葉に気休めめいた空気を感じざるを得なかった。
 ヘリを使っての大々的な降下占領作戦をやってのけるような敵の規模からすれば、島周辺をぐるりと包囲してくることも充分考えられる。
 人工島である「特区」を脱出するにあたっては、陸路以外のルートを頼る以外にないため、囲みを突破するのは、簡単なことではない。一番発見され辛い潜水脱出でも、艦艇や対潜航空機から、狙い打ちにされるリスクと隣り合わせなのだ。
「了解! 上げていくよ、兄貴!」
 しかし、佳代は、男の言葉によって勇気づけられたようで、一層走りのペースを速めていく。その軽快さは、陸上の短距離選手というよりも、ネコ科の獣が二足歩行で駆けているといった方が近いほどだ。
 新月は、肺と心臓が悲鳴を上げるのを感じながらも、「妹」に遅れまいと、自分の脚のギアを、トップへと入れて走り続けていたが、肉体的な痛みの反面、手ごたえを感じてもいた。
(これは、上手くいくかも知れません。いや、ここまできたら、何としてでも!)

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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