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ラブストーリー

恋の足音2

   

再び伸吾と会う事になった桃花は、地下街で彼を見つけ、声を掛けた。
先程会った時とは、また違った彼の表情に、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
伸吾の要望で、観光名所へと案内する事になった桃花。
小樽へと案内する事になり、伸吾と一緒に居る時間が長くなればなるほどに、彼に惹かれている自分を感じるのだが・・・。

 

 再び大通駅に降り立った桃花は、『ポールタウン』の入り口に向かった。だが、人が待ち合わせに使う場所だけに、伸吾の姿を探すのは大変かなと思っていると、頭一つ飛びぬけている男が、改札横にあるコインロッカーに凭れているのを見つけ、駆け寄った。

「伸吾君」
「うぉっ、ビックリした」

 伸吾の腕を軽く叩くと、大袈裟に驚いてみせる幼さに、桃花の笑いが零れた。

「俺、マジ心細かったんだけど。知らない土地に一人・・・こんな小心者の男がデカイ身体を小さくして」
「誰が小心者よ」

 自分の身体を抱き締めて、泣きそうな顔をしながらおどけてみせる伸吾に、桃花は声を上げて笑った。さっき会った時とは、また別人のようだった。
 初対面じゃなくなった事が、二人の間にあった薄い隔たりを無くしてしまったのかもしれない。
 伸吾は、さっきよりも饒舌で、桃花を真っ直ぐに見ながら話しかけてくる。そんな仕草に、嫌でも心拍が上がり、胸の奥が熱くなってくるのが分かった。

「ね、この辺じゃないどっか見る場所ってある?観光名所みたいな」
「観光名所・・・ねぇ・・・。ありきたりに時計台ってのもあるけど、見たらガッカリするよ?」
「何で?」

 伸吾の反応に、意外とまだ知られていないのかと苦笑した。
 大概、地方から来る観光客は、大草原の真ん中に時計台があり、どこか外国の絵本のような姿を想像して来るのだ。
 だが、実際はと言えば――。
 伸吾を連れて地下通路を渡り、雪祭り会場の下を歩いて北側の出口で地上に出ると、桃花は少しだけ先を歩きながら時計台の場所へ向かった。

「・・・アレ?」

 桃花が指差した先に見えた物に、伸吾が間抜けな声を出した。
 札幌時計台は、姿こそ大草原のど真ん中にありそうな粛然とした姿をしているが、実際はビルに囲まれた中に位置しているのだ。申し訳なさ程度に周りに植えられている木々が、その雰囲気を少しだけ出しているが、やはり高層ビルが周りにあれば、その雰囲気も半減させているのだった。

「ね?だから、言ったでしょ?ガッカリするって」

 桃花は予想通りの反応に、楽しげに笑った。すると、伸吾も釣られて笑い、参ったというように髪を掻き回した。

「んじゃ、別なとこ行かない?俺、どこでもいいよ。時間とかも特に無いし」
「でも、皆と来てるって言わなかった?」

 そういえばと思い出した、あの時交わした会話。部活仲間と旅行だったはずなのに、一人別行動でいいのかと首を傾げた。

「ホテルには一緒に泊まってるから。それに、アイツ等とは明日も明後日も明々後日も動けるからさ。今の内に、桃花さんに色んなトコ教えてもらって、知ったフリして連れてってやろうかと」

 ニッと悪戯っ子のような笑顔を見せた伸吾に、桃花は笑いながらも、胸の熱さが倍増した気がしていた。
 伸吾と一緒にいるのが楽しくて堪らない。それと同時に、彼を独占できている自分に優越感が湧いた。その優越感は、伸吾をすれ違いざまに見詰めていく女性達へだ。通り過ぎてから聞こえてくる「カッコイイ」という言葉。そのカッコイイ彼と一緒に歩いているという変な嬉しさは、女の嫌な部分でもあるのだが。
 桃花は、そんな自分に呆れながらも、今日だけ・・・と、この楽しい気持ちを持ち続けたかった。

「どこに連れてってくれる?桃花さん」
「どこ・・・がいいのかなぁ。もうすぐ夕方になっちゃうし・・・あんまり遠くも・・・」
「じゃぁさ、えっと、小樽って此処から近い?前にテレビで見たんだけどさ」

 小樽は、札幌の隣に位置する。札幌駅から快速列車に乗れば、35分程度で着いてしまう。時間を見れば、まだ2時前だ。

「札幌から快速で35分位だけど。行く?」
「桃花さんは?時間平気?」
「あー、アタシは気ままな一人暮らしだから。時間は関係ないよ」
「そっか。じゃ、連れてってもらっていい?」

 長身の身体を折り曲げて桃花を覗き込んだ伸吾は、視線が合った瞬間、身体を戻した。そして、口元を引き締めた。そんな仕草に、桃花は首を傾げながらも、伸吾と札幌駅に向かった。

 

-ラブストーリー


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