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ノンジャンル

約束

   

夫を交通事故でなくし、拓也と二人で強く生きていこうと思った。
誰にも頼ることの出来ない私たちが生きて行くには、心を強く持たなければいけない。あのとき、そう誓ったはずなのに……。

 

「パパはどうして目を覚まさないの?」

 自分の父親が天国へと旅立ったことがまだ理解できない拓也は、花に囲まれながら棺の中で静かに目を閉じている父の姿を見て言った。

「パパはね、これから遠いところに行かなきゃいけないの。とても遠い場所だから、眠ったままで行かなきゃいけないのよ。ずっと起きたままだと疲れちゃうでしょ?」

「また会える?」

「うん。ちゃんとママのいう事を聞いてたら、きっとまた会えるよ。次にパパに会えるまで、おりこうさんに出来る?」

「うん。ちゃんとママの言う事きく!」

 夫は交通事故で命を落とした。数少ない親戚が一堂に集まり、拓也の四歳の誕生日を祝うはずだった。車で迎えに行った夫と義理の両親は、高速道路で居眠り運転をしていたトラックに追突され、帰らぬ人となった。

 幼い頃に父親を亡くし、高校を卒業してすぐに母親をなくした私にとっては、本当の両親のような存在だった。夫とその両親を一度に亡くした私に、頼る場所などなかった。

 たった一人、私の手元に残った拓也と、これからの人生を強く生きていこう。

 出棺の際、私は心にそう決めていた。

 二人きりの生活が始まった。これから先、二人で生きていくうえで、私は拓也とある約束を交わした。

『どんな事があっても絶対に泣かない事』

 強く生きていくためには涙は見せてはいけないと、私は思った。それが正しい。私は強く生きなきゃいけないんだ。そう思っていたのに……。

 幼い頃から病弱だった私が、子供と二人、誰にも頼らずに生きていくのは正直、楽ではなかった。仕事をしても長くは続かず、自分の身体の弱さと、意志の弱さに愕然とした。どうしても拓也を守らなきゃいけないのに……。

 気持ちと身体がバラバラになる。一生懸命働いて拓也を育てなければと思うほど、思い通りに動かない体に苛立ちを感じる。気持ちばかりが先行し、いつも不安に襲われながら、眠りに就く事も出来ず、いつしか笑う事さえ忘れてしまった。私は、生きていく事を諦めはじめていた。

 

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