幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

ヤマナイアメ

   

 カズミは任されていた仕事で大きなミスをしてしまった。
 気をつけていれば防げたミス。自分で自分が情けなく思い、人の来ないお手洗いの個室で、ひとり、溢れ出す涙を堪えられずにいた。

 

 その日、カズミは仕事で大きな失敗をした。オフィスビルの一番奥にある、あまり誰も利用しないお手洗いの個室の中で、声を押し殺しながら、一人涙をこぼしていた。

 責任感が人一倍強く、自分がやらなければ誰がやるという気持ちをいつも持っていたカズミにとって、今回の失敗に対するダメージは計り知れなかった。会社に対しても、そして何よりも自分に対しても……。

 もちろん今まで仕事をしていく上での失敗は何度も経験している。今回のように会社に大きな損失を与えてしまったことも過去に数回あったが、これほどまでに気持ちが落ち込むにはワケがあった。

 今回の仕事はカズミが企画の段階から参加し、その企画をまとめあげる責任者として抜擢された、初めての大きな仕事だった。

 今まで恋愛そっちのけで仕事に打ち込んできたカズミにとって初めて任された大きな仕事。初めて責任者を任された日。嬉しさのあまり、めったに連絡をしない両親にまでその事を報告していたぐらいだ。

 カズミの実家は東北の山奥にある小さな農村だった。両親はそこでリンゴ農園を営んでいた。都会とは違うゆっくりとした時間が流れるその場所。何の変化もない生まれ故郷は、カズミにとってはとても嫌いな場所だった。

 人一倍向上心が強く、仕事のできる女性に憧れるカズミにとって、自分が育ったその場所はあまりにも自分の理想とはかけ離れていた。

 カズミは高校を卒業するとすぐ、自分の理想を追いかけるために都会へと移り住んだ。

 ファーストフードでの接客やファミレスでの皿洗い、時にはスナックで頭の薄い親父達の話し相手をするなど、とにかくお金を貯めて、いつかきっと大きな仕事をしてやるという気持ちを持ちながら必死で働いた。

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品

約束の日

書くの辞めたい 第一夜 作家もどきの本音

南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 最終話 埋蔵された巨謀(24)

メンタルケア

占われた人生