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SF・ファンタジー・ホラー

マスクエリア 第五覆面特区〜二章 崩壊の足音(8)

   

新月たちがアランの軍門に下った頃、第五覆面特区で試合を行っている清水たちの人気は、そのファイトの充実した内容が受け、かつてないほどに高まりつつあった。

その日も、本土の有名レスラーたちを向こうに回しながらも内容で圧倒する活躍ぶりで、会場からは自然と「シミズ」、「カサイ」のコールが上がってくるほどの盛り上がりの中に身を置いていた。

しかし、充実した興業の内容そのものとは別に、清水たちはある深刻な問題に直面していた。

 

 シ・ミ・ズ、シ・ミ・ズ、シ・ミ・ズ!
 カ・サ・イ、カ・サ・イ、カ・サ・イ!

 第五覆面特区の中でも、最大の観客収容能力を誇る、第一中央体育館。自由席や立ち見を合わせれば、優に数万人以上が一堂に会することが可能なこの体育館は、近隣の特区にもないレベルの施設として注目を集めている。
 だが、同時に、この規模の体育館を満杯にするだけの試合を行うのは、興行が競り合うこともあってかなり難しいとされてきた。特区内で最も力がある団体が、「本土」から有力選手同士の試合を、タイトル付きで引っ張って来ても、この大きな会場を観客で埋めるのは簡単なことではない。
 しかし、この日、中央体育館には、全く空席はなかった。しかも、体育館を埋め尽くした観客たちは、皆一様に燃え上がっている。老若男女、身なりやリングからの距離も一切関係なく、偵察に来たらしい、一目で素人ではないと分かる逞しい男たちまで、リング上に、声を枯らさんばかりの声援を送っているのだ。
「しゃああっ!」
「おおおっ!」
 数万の喝采を集めているリング上のレスラー、清水と香西は、咆哮しながら、互いの右腕を絡ませた。覆面と腰を覆うタイツ以外、何も身に着けていない肉体のほとんどの部分には、赤く腫れるか、青黒いアザが出来ているか、擦過傷が出来るかしており、パーツとして無事な部分は皆無に近い。布地に覆われている顔も、打撃を食らったために、ボコボコに腫れてしまっている。だが、清水は痛みを感じていなかった。戦いの高揚と、観客からの声援を一身に浴びている充実感は、しばしばレスラーから痛みを忘れさせてしまうものだ。

 

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