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マスクエリア 第五覆面特区〜二章 崩壊の足音(9)

   

興行から一か月、高倉は未だ姿をくらましたままだった。そして、表面化した莫大な負債が原因で、各方面への支払いも滞り、団体は経営破綻寸前にまで追い込まれていた。
清水たちレスラーが総出で無償労働を行い、部外者の榊原にまで頼み込んで仕事をして貰うという総動員態勢を取ってはいたが、もはや限界なのは明らかだった。
そんな中、探偵という職業上のスキルを活かし、高倉の捜索を行っていた香西が、憔悴した面持ちで、一枚のロムを携え、事務所に姿を見せる……。

 

「妙ですねえ、何故ご不在なのですか?」
 丁寧な聞き方ではあるが、不安と苛立ちを強く感じさせる受話器の向こうにいる相手に対して、清水は、ぺこりと頭を下げながら弁解した。
「いえ、この特区の外でやっている事業の方に、緊急の事態が生じたため、現地に向かったと聞いております。何分『本土』の特別管理区域内ということですので、連絡不能な状態が続いてしまっているのですが」
 清水の出まかせを、相手は信じてくれたらしい。ふうむ、という、深いため息が電話越しに伝わってくる。
「うーん、ならば仕方がないですね。契約更新料もきっちり頂いているわけですし、業務上も問題ありませんしね。ただ、やはりこの手の仕事は『信用』と『顔』が要なのですよ。私共は、高倉準が陣頭に立っているからこそ、今の条件で締結したのですから。誰でもいいというわけではないのです。社長がお戻りになった際には、その辺りを改めてお伝え下さいますよう」
 清水が謝罪の言葉を述べる前に、電話はがちゃりと途切れた。無理もない。
 高倉は、もう一月近くも、完全に姿を消し、雲隠れしてしまっている。興行はもちろん、事務所にも顔を見せていないし、訪れた形跡もない。だから、事務所に所属している、清水たち中堅、そしてベテランのレスラーたちが、高倉の代わりにオフィスで事務作業を代行しているのだ。

 

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