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ラブストーリー

LOTUS 〜Plain Lovie〜

   

「実は、あたしね」
「うんうん」
「制服のリボンタイ……なくしちゃったの」
「ええっ」

LOTUS』 ―稔×瑞穂―
≪光輝*高等部1年生*11月≫

Illustration:Dite

 

 欲しいなんて言えないから。
 言いたくても、言えない言葉だから。
 お兄ちゃん、このタイ、あたしにずっと貸しておいて。

 生徒会執行部の後期役員選挙が終わり、執行部の顔触れが12月から一新されることになった。空前の長期政権を誇った野々宮花織は生徒会長の座を後任に譲り、新メンバーのなかには、花織の愛弟・野々宮大樹が書記として加わることになった。
 姉のようにいきなり生徒会長ということはなくても、一足飛びに副会長あたりには行くのではないか。
 そう見られていた大樹だが、何か思うところがあるのだろう、今期は大人しく書記の座に納まっている。共に出馬すると思われていた成田光輝がクラス委員に留まっていることから見ても、今期はいわゆる「中継ぎ政権」に近いというのが、関係者一同の見方だった。
(生徒会長かぁ…………)
 生徒会執行部の役員には、基本的には誰でも自由に立候補できることになっている。だが、よほどの理由がない限り、現役のクラス委員から立候補者が出されていた。そんななかで、中等部1年5組の沢渡瑞穂は、まだ中等部の1年生ながら、すでに「未来の生徒会長」と呼ばれていた。
(そんな大役、あたしに務まるのかな)
 クラス委員と五大委員会の各委員は、生徒会執行部の四役に入るか、不信任決議案でも出されない限り、自動的にその役職を延々と受け持つことになっている。瑞穂も順当に行けば、大樹のように高等部1年生の前期あたりまではクラス委員を務め、そのあとで執行部に入るということになるのだろう。
 瑞穂は勉強机の右端に置いた、小さな鉢花に目をやった。
 それはこの夏に大好きな兄からもらったバースデー・プレゼントで、正確に言うとフラワーではなくグリーン、もっと正確に言うとホヤ・カーリーと呼ばれるサクラランの仲間の、ぷっくりした肉厚の葉だけを挿し木にして小さな鉢に植えたものだった。
 以前、2人で通り掛かったフラワー・ショップの店先で見掛けたもので、瑞穂が「かわいい!」と言ったのを、稔が奇跡的に覚えていたのだろう。小型の白い素焼きのポットにちょこんと差し込まれたハート型のグリーン・リーフは、今や瑞穂の勉強机の素敵なアクセントになっていた。
(覚えていてくれて嬉しかったけど……でも、やっぱり、ちょっと困っちゃうな)
 調べたところによると、このハート型のリーフは「恋を叶え、愛を育む植物」らしい。花が咲くと願いが叶うそうだが、自分の場合はどうだろうかと、瑞穂はハート型のリーフを見つめながらため息をついた。
 叶って欲しいけれど、叶ってはいけない願い。
 まるで、心の奥深くに隠しておいた、秘めた想いが実物になって出てきたようだった。だからこそ、そのハート型のリーフを見るたびに、瑞穂はくすぐったいような、後ろめたいような、うまく言葉にできない気持ちになるのだった。
 このハート型の葉から小さな芽が出て、花が咲くところを見てみたい。でも、本当に咲いてしまったら、どうしたらいいのだろう。この秘密の願いが、叶ってしまうのだろうか。叶ってしまっても、良いのだろうか。

 

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