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恋愛 / ラブ・ストーリー

LOTUS 〜Plain Lovie〜

   2009年4月2日  

(学園の「タイの伝説」のことも……やっぱり、お兄ちゃんは知らないのかな)
 先月、学園祭が終わってすぐの頃――瑞穂は、急な発熱のために1日だけ学校を休んだことがあった。そのときに、見舞いに訪れた瑠音から、学園に代々伝わる「タイの伝説」を聞いたのだ。
 それは「想いを寄せる相手が学園内にいる場合、中等部・高等部両方のタイを交換すると、その人と結ばれて一生幸せになれる」というものだった。
 冷静に考えてみると、中高一貫校になってからの初代卒業生がまだ30代なのだから、「一生」というのはおかしい。おかしいのだが、学園中の生徒がこの伝説を信じて、せっせと実行していた。瑞穂は知らないのだが、大樹まで棚橋とタイの交換をやっているのだから、根は純情な子供たちばかりが集まった学園だと言えるだろう。
(お兄ちゃんは中等部のリボンタイ、誰かにあげたのかな。それとも意味なんて知らなくて、捨てちゃったのかな)
 瑠音経由で「タイの伝説」を知ってからというもの、ずっと気になっているのだが、本人に尋ねる勇気がどうしても出ない。そんなわけで、瑞穂はいまだに、兄のリボンタイの行方を知らないのだった。
「お兄ちゃん…………」
 小さな声で、思わずつぶやく。
 そのときだった。
「おーい、みっちゃーん! おっはよ!」
 玄関の扉が開き、なんの前触れもなく兄の声が聞こえてきて、瑞穂は仰天した。
「お、お兄ちゃん! どうしたの、こんなに早く」
「んー、なんか知らねぇけど目が覚めた。せっかくだから、朝メシ前に軽く走ってこよっかなって思ってさぁ」
「そう」
 ちょうど兄のことを考えていたのと、兄には内緒のお手伝いがバレてしまって、ちょっぴり気まずい。瑞穂は仕方なく、黙々と洗車に専念することにした。
「みっちゃんさぁ、洗車してるってことは、なんか欲しいものでもあるのか?」
「うん、ちょっとね」
「そっか。兄ちゃん、金ねぇから金は出せねぇけどさ、洗車だったらいっくらでも手伝ってやっから!」
 ジョギングに行く予定などさっさと取り下げてしまったのか、稔はニカッと笑うと、バケツのぬるま湯に浸しておいた、タイヤ用のブラシを手に取った。瑞穂は小さく笑って、ボンネットから運転手席側のドアに回った。
「ちょっと、お兄ちゃん! 手伝ってくれるのはいいけど、反対側のタイヤから洗ってよ。狭いじゃない」
「ヘーキヘーキ、別に狭くねぇって」
 稔は瑞穂の真横にしゃがみ混むと、パジャマと大差ないジャージ姿のまま、鼻歌まじりに右前輪を洗いはじめた。そんな兄の隣で、瑞穂は大いに焦った。
 自宅の庭先&身内の前なら、どんな格好をしようと構わないはずなのだが、兄に切ない恋心を寄せる身とあってはそうもいかない。洗車の間だけだからと、今は去年買ってもらった、某有名キッズ・ブランドのトレーナーとデニム地のミニスカートを着用しているのだが、瑞穂の乙女心には、それが少々引っかかるのだ。
(もう……いつもは起こしてもなかなか起きないくせに)
 13歳にもなって、「150」などと身長でサイズが表示されている服を着ているのは、かなり恥ずかしいのではないだろうか。しかもこのデニムスカートは2段に渡るフリルつきで、トレーナーには、いかにも小学女児が好みそうな、ポップでカラフルでめちゃくちゃキュートな子猫のプリントまで入っているのである。
 そんなわけで瑞穂は、兄が接近してきたドアをかなり手抜きをして洗い上げ、さっさと後部座席のドアに移動した。

 

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