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恋愛 / ラブ・ストーリー

LOTUS 〜Plain Lovie〜

   2009年4月2日  

「…………ねえ、お兄ちゃん」
「んー?」
「お兄ちゃんは、何か欲しいもの、ないの?」
「あるある。数え切れねぇくらいあったりする!」
「たとえば?」
「そりゃもう、みっちゃんからのクリスマス・プレゼントとかv」
「そんなの、あげるに決まってるじゃない。あたしも、お兄ちゃんからもらってるんだし……大体、毎年ちゃんとあげてるでしょ」
「いやぁ、そうなんだけどさっ」
 楽しみにしてくれているのだと思うと、やはり嬉しい。
 どうせ話題に出してしまったのだ、あれこれ悩むより本人の欲しいものにするのが一番だろうと、瑞穂は何かリクエストがないかと聞いてみた。
「んー、今年はもう、みっちゃんからいっぱいもらったからなぁ。校外学習のときの、お手製の湯呑とかさぁ」
「そうよ、お兄ちゃん、あれは湯呑なの。鉛筆立てじゃないんだからね」
「だって湯呑に使うの、もったいねぇんだもん」
 湯呑なのに本来の使いかたはもったいなくて、鉛筆立てなら良いのだろうか。おかしな話だったが、稔らしいと言えば、稔らしいのかもしれなかった。
「とにかく兄ちゃんはな、みっちゃんからのプレゼントだったら、なんだって嬉しいんだ! それよりみっちゃんのほうこそ、なんか欲しいものがあるんだろ? 兄ちゃんのことなんか、気にしなくていいぜぇ」
「あっそう。じゃあ、今年のクリスマス・プレゼントは、購買の『黒糖あんドーナツ』1個だけでもいいのね」
 ぷんっとむくれてしまうのは、兄へのプレゼント代を稼ぐために洗車をしているのに、ちっともわかってくれないから。だが、稔は100円のドーナツ1個でも嬉しいのか、瑞穂を見上げて「兄ちゃん、あれ大好きだぞっ」と顔をほころばせた。
「みっちゃんは? みっちゃんの欲しいものってなに?」
「それは…………」
 瑞穂はしばし口ごもり、やがて、あることを思いついた。
 この思い付きを実行に移していいものかどうか大いに迷ったが、瑞穂は結局、緊張に胸を痛いほどドキドキさせながら、大好きな兄にひとつの大きな「嘘」をついた。
「実は、あたしね」
「うんうん」
「あのね、制服のリボンタイ……なくしちゃったの」
「ええっ」
 意外なことを言い出した妹に、稔が驚きの声を上げる。瑞穂は、この「嘘」がばれてしまわないよう、慎重に、けれどさりげなく言葉を継いだ。
「土曜日にどこかにやっちゃったみたいで……いくら探しても見つからないの。ほら、あのタイって、購買で買うと1000円もするでしょ。だから洗車でおこづかいをもらって、新しいタイを買おうと思って」
「それってさぁ、母さんに頼めば、必要なものだから買ってくれると思うんだけどなぁ」
「いいの。だって、なくしたあたしが悪いんだもの。だから今日はお母さんからおこづかいをもらったら、購買で新しいタイを買おうと思って……朝イチで購買に行けば、規律委員さんたちにも怒られないと思うから」
「そっかぁ…………」
 稔はしばらく黙って、タイヤをゴシゴシとこすっていた。瑞穂のほうはと言えば、この「嘘」を聞いた兄がどう出て来るだろうかと、そればかりを考えていて、洗車にまったく身が入らなかった。

 

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