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ラブストーリー

渚-nagisa-(23)

   

タケルを鍛えるために、弘樹は何やら妙なことを企んでいた。約束の時間にタケルが外に出ると、そこには弘樹の兄である万次郎の姿があった。万次郎の顔を見たタケルは、『ある事』を思い出し、嫌な予感がしてならなかったのだが……。

 

渚 第23話 不意打

 弘樹には二つ年上の万次郎の他に、四つ年上の千太郎という兄がいた。一番上の兄が千太郎で、次男が万次郎。千と万にちなんで、弘樹は圓楽と名付けられるはずだった。三人合わせて「千万圓」という縁起のよい語呂合わせになるはずだったのである。

 落語が好きだった弘樹の父親が、弘樹が生まれる昭和三十八年のひとつ前の年に真打に昇進した5代目三遊亭圓楽のファンであったため、その名前に決めようとしていた。だが、親戚中の猛反対にあい、結局『弘樹』という名前に決まった。

 弘樹の名前の由来は、父親の出身が青森県の弘前市であり、その場所の特産物がりんごであった為、弘前の「弘」とリンゴの木の「木」を組み合わせた名前だった。

 ただ、名前に「木」が入るのはおかしいので「樹」に変えて『弘樹』という名前になった。そういった中村兄弟の名前の由来を、以前、弘樹の口から聞かされていたのをタケルは思い出していた。

「タケル? どうした?」

 万次郎が一人でブツブツと愚痴を漏らすタケルに尋ねた。万次郎に話しかけられたタケルは、身体をビクつかせていた。

「何びびってるんだよ。もう昔みたいな事はしないから大丈夫だって。俺だってもう大学生なんだからさ、いつまでも子供みたいな事しないって」

 万次郎は豪快に笑いながらタケルに言った。

 弘樹の兄である万次郎は、弘樹よりも少し背が低く、そして弘樹よりも体の線が細い。

 中学時代から陸上部に所属し、長距離の選手として全国大会でも上位の成績を残していた。

 だが高校時代に交通事故に遭い、選手生命を絶たれる事になる。今でも趣味程度でマラソンを走っているので、とてもスリムな体型である。

 タケルは万次郎の事を苦手に思っていた。小学校の6年の時、万次郎にイジメられたことがあったのだ。

イジメたといっても嫌がらせや、殴る蹴るの暴行を加えられたのではない。

 タケルが『ある物』に対して過剰に反応するので、そのパニックになる様子がおかしくて、毎回タケルにその『ある物』をチラつかせては、それを持って追い掛け回していたのである。

 

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