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歴史・時代

宮廷戯曲/第4話

   2005年10月1日  

“色褪せる日常”

あくまで企みの一環として始められた高呂順(29)との交わり。しかし、それは、老帝の側室・紫嬉(25)の意識に大きな変革をもたらした。

男の残した感覚を辿って、紫嬉はひとり、わが身を慰める…。

愛と陰謀渦巻く宮廷ラブストーリー。

 

第4話
“色褪せる日常”

「…もう下がってよい」
紫嬉(シキ)は、けだるい気分のまま、そう命じた。深々と頭を下げて、楽師と女たちが部屋を後にする。
ひとりになった部屋で、紫嬉はまた、大きくため息をついた。
(憂鬱なものよ…)
後宮の女の日常は、退屈極まりない。自らを飾り立て、日長一日美容のために時間を費やし、ただただ、皇帝の寝所に召される夜を待つ。
皇帝の寵にあずかり、それなりの地位を築けた者は、下々の暮らしでは想像もつかぬような豪奢な衣装や宝飾具を身につけ、贅沢の限りを尽くすこともできる。しかし、どんなに寵を得たとて、後宮の外に一歩も出ることが叶わぬ身なのは変わらない。
この場所で、人生の半分以上を過ごした紫嬉は、それを当たり前と思い、何の不満を抱いたこともなかった。誰よりも老帝の寵を得ること。それが至上の喜びと信じて疑わなかった。
老帝の寵が褪せることは、大いに憂鬱の種であったが、それ以外の生活に不満を抱いたことはなかったのだ。

しかし、紫嬉の中で何かが変わってしまった。
(全ては、高呂順(コウロジュン)…あの男のせい…)
この後宮での地位を守るため、御子を宿す企み。そのためだけに始められた逢瀬。だが、高呂順との行為自体がもたらした感覚が、紫嬉の意識を大きく変革した。
紫嬉は知らなかった。その行為がこれ程の悦びと充足感、そして飢餓感をもたらすものだとは…。

あれから、既に二度、逢瀬を交わした。暗闇に包まれた後宮、男は密かに紫嬉の部屋を訪れ、その身を奪う。
いっそ冷酷なほどに冷静沈着、私情を差し挟むこともなく、人間らしい表情のない能吏。そんな高呂順だが、寝台で紫嬉を抱くときは、その印象が大きく違う。
(まるで機械仕掛けの人形のようだと、思っていたが…)
紫嬉は、小さく笑った。そんなことはない。あれで、ちゃんと熱い血の通った人間だった。
熱く、激しく、時に優しく、その手は紫嬉の身体を翻弄する。それは義務ではなく、悦びなのだと教えるように…。

 

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