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ラブストーリー

晴れ、のち【2】

   

 いとこ同士の二人が織り成す、心が温まる物語を贈ります。
 自分には似合わない場所で、そわそわしながらさ迷う彼の、ちょっとドキドキした雰囲気が伝われば幸いです。
 彼が頑張る、理由は何か。
 それをここで記すのは無粋。
 どうぞご堪能下さいませ。

***抜粋***

「よーう」
「……本当に来たのね」
 駆け寄ってきた途端に放たれたヤッコの言葉に、俺の苛立ちがハイテンションになる。
 でもヤッコは別に嫌がっているそぶりはなくて、むしろ嬉しげなのできっと照れ隠しに違いないと決めつける。
「応援に来たぞ」
「うむ、御苦労」
 とりあえず、ヤッコが偉そうなのはデフォルトらしい。

 

 バスを二つほど乗り継いで、俺は何とか、記録大会があるという競技場に辿り着いた。到着した時間は、予定より三十分は早い。
 何事も十分前行動が基本だ。
 ……すまん、嘘だ。
「っげほっ、ごほっ」
 目の前に排気ガスが撒き散らされて煙い。咳き込んで涙目。やたらと古臭いバスのステップを降りながら、「うごっ」と他の乗客に押されて車外に出る。凝った身体を伸ばしながら、周りを見渡したら子犬が「きゃん」と鳴いた。
 若干逃げ腰。犬は苦手だ、悪いか。
 数歩後ろに下がってから、俺はぐいと顔を上げた。大きくて古臭い建物は、競技場前という停留所で降ろされたので、道に迷ってはいない。
 ……はずなんだけどな。
 ざわざわざわ。
 がやがや。
「ふぅむ」
 肩に掛けた鞄を背負い直し、ズボンの尻ポケットに手を突っ込んでのんびりしている、雰囲気で右を、左を見る。競技場の周りを走る選手らしき男子、それの応援に来ているらしい家族や、お偉いさんらしいスーツマンが歩いている。
 一般通行人も混じっているかな?
 そんな中で、俺は全く浮いてはいないんだが、自分的には浮いた気持で溜息をひとつ吐く。今ひとつ落ち着かない。今更ながらに、来てよかったのかとか、迷っているせいだろう。
 まあ、今更だ。
 とりあえず立ち止まっていても始まらないので歩いてみる。競技場の入り口まで移動してみれば、今回の記録大会の名前が張ってあるので、ちょっと安堵。
 よし、たぶんこれだ。
 それでも確信できない自分の小心さを、笑うなら大声で笑え。
「お父さんっ、お兄ちゃんが走っちゃうよッ!」
「はっはっはっ。大丈夫だ、お兄ちゃんは昼からだからな」
「今日はいける、気がするっ」
「言ってろ言ってろ」
「……」
 がやがやがや。
 家族連れと選手達の歩みに紛れながら、立ち尽くしても意味がないので足並みを合わせて歩いていく。そもそもどこに行けばいいとかを、実のところ聞いていない。
「あっちゃー」
 手のひらで前髪を掻き上げて呻く。
 しかも何だ、どの競技に出るのかすら確認できていないじゃないか。
 今更ながらに自分の確認不足を思い知る。
 やっぱり昨日、電話しておくべきだったかな。
 ……ま、それも今更だ。
 さらに歩ませ、流れに乗って競技場に入っていく。観客の流れのままに階段を上がり、途中でいくつかの流れに別れる。む。とりあえず右へ行く。さらに枝分かれ。
 いざとなれば、誰かに聞こう。
 そう思いながら、こん、こんと階段を上がって、狭いコンクリートで囲まれた視界が、ぼわっと光に満たされる。手を掲げて光を遮断。
 それから瞼を少し閉じて、そっと開いて、
「おお」
 広がる光景に、俺は感嘆の声を漏らす。
 視界の開けた競技場の中心には、競技場が一望できる、赤や青の椅子がたくさん並んだ観客席が広がっていた。

 

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