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ラブストーリー

晴れ、のち【3】

   

 いとこの二人が織り成す、心が温まる物語を贈ります。
 ヤエの葛藤、あるいは戸惑いが、読者様に伝わる事を願いつつ、どうぞご堪能下さいませ。

++抜粋++

 遠くにいる、トシを見る。じっと見つめているあいつの口元が若干動いている気がして、たまに隣を見ているような感じなのが、苛立った。
 理由は明白で。
 たぶん、乙女な事情なわけで。

 ヤエは改めて、自分の気持ちを再確認、してしまう。

 ヤエは。
 あの引きこもりを、好いている。

++ ++

 

「選手はこちらで待機して下さぁあい」
 大会実行委員の誘導に従いながら、ヤエも競技者の列に並ぶ。
 出場する競技は八百メートル。ヤエを含む何人かの選手が、それぞれにストレッチをしながら集まっていた。
 誰もが、互いに緊張や熱のこもった面持ちを浮かべている。
「……はぁ」
 そんな中、ヤエはなんというか、むかむかしていた。胸がじゃない。腹がだ。自分でも分かるくらいに、苛立っていた。
 いとこのトシが、応援に来てくれた。
 トシはついでだと言っていたけれど、結局のところはヤエの為に今、そこに居るわけで、応援される側のボルテージもいい感じに上がる、はずだった。
 そういえば昔は応援、結構してくれてたもんなとか、思ったというのに、だ。
 トシが差し入れてくれたスポーツ飲料は甘酸っぱくて、最初に渡されたレモン味は不味かった。でもオレンジはおいしくて、トシの飲みさしだったから、ちょっと喉が焼けそうになった。気持ち的な問題で。
 なのにヤエの、怒りが収まらない。
 つまり、誰だよ、あれ、だ。
 むかむかと、言い表せない苛立ちが心の中に沸き起こってくる。ヤエの乙女心が男勝る。なんというか、心の言動が荒い。
 どこの誰だかわからない女の人は、明らかにトシとヤエの会話に対して笑っていた。トシも受け答えしていた。
 間違いない。
 そう考えたところで、そもそも最近のトシの事を全くと言ってイイほどに知らない自分に気付く。昔は親しかったいとこ殿とは、ここ数年、疎遠になっていたのだから仕方がない。
 なのだけれど、苛立ちは消えない。
 実際、この前の台風のひと騒動がなければ、トシとヤエは疎遠のままだったに違いない。トシは田舎の里帰りの時にだって姿を見せない程のひきこもりだし、正月だってお年玉をせびりに来ない。ああ、ヤエにじゃなくてヤエの親にだ。
 それくらいに出不精なのだ、トシは。
 そう思うと、ヤエの応援に来てくれただけで嬉しい……と思ったのに、だ。トシの隣に居た人は、うん、綺麗な人だった。
 なんか清楚って感じで、ヤエとは対照的な感じの女性に見えた。ヤエにはない魅力を兼ね備えた女性はたくさんいるけれど、ヤエもなかなか、女としては低いランクであるとは思ってはいない。自慢じゃない。自信だ。
 なのに、トシはそれをわかっていない。酷い話だ。

 

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