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ラブストーリー

晴れ、のち【4】

   

 心温まる、いとこ達の物語を贈ります。
 一度離れた二人が、ぎこちないながらに仲を取り戻して、紡がれた涙は、悔しさからとは限らない。
 晴れ、のちの物語はここで〆。
 淡く切ない物語を、どうぞご堪能くださいませ。

 

「よう」
「……よっ」
 俺の呼びかけに、ヤッコは俯かせていた顔を上げた。
 試合が終わるとすぐに、俺は観客席から一階への階段を降りていった。競技場にいるヤッコの元に行こうとしたんだが、当のいとこ殿は競技場と階段との間にある通路に居てくれたから助かった。
 ヤッコの元に寄ろうとして、何となく気まずい雰囲気に足踏みする。壁に背中を預けて、まるで俺を待つかのようなヤッコが、横目にこちらを見て肩をすくめた。
「ごめん」
 ぽつり、とヤッコが笑った。寂しげな笑みだった。返す言葉が出てこない。
 っ。何をためらってるんだ、俺は。
 俺は止めていた足を進めてヤッコに歩み寄る。
「お疲れさん」
「いけるかなと思ったんだけどねー。無理だったわ」
「……そうか」
 全く持って気遣いのない言葉しか吐けない自分が情けない。
「全力は尽くした。結果は結果、ね」
 ヤッコが浮かばせた面持ちは軽かった。爽やかに笑って、舌を出しておちゃらけてくる仕草は、ちょっと女らしかった。
 それが何とも、切なかった。
 走行結果は、残念ながら房見さんの妹さんが一位、ヤッコが二位だった。充分にいい結果だ。けれど競争である以上、二位は一位に負けた事になる。
 試合が終わるとすぐに、俺は観客席を後にした。ちなみに房見さんは、足が不自由で車椅子だったため、あえて誘わなかった。「ちょっと行って来ますね」「そうね」なんて会話だけをした。
 トラックから競技場の建物へと通じる廊下で、俺はヤッコに習うように壁へ凭れかかる。走り終え湯気立つヤッコが、首にタオルを置き、同じように俺の隣で壁に凭れていた。
 互いに見合わず、隣り合う。
 ヤッコの身体から立ち上る汗が、彼女の疾走の名残を垣間見せてくる。
「二位でも十分凄いんじゃないのか? 決勝だろ?」
「まあね」
 俺の不出来な励ましに、ヤッコが心持ち嬉しげな顔をする。だけど作っている、どこかぎこちない感じの笑い方が何とも切ない。
 ヤッコの手が、くしゃりと前髪を掻く。
「勝負は時の運よ」
 そう呟くヤッコの横顔が、どこか寂しげに見えて、俺は何とも居た堪れない気持ちになる。ヤッコはそれ以上何も言わず、天井を見上げてぼーっとしている。
 俺は俯き、少しだけ言葉を選んで口を開く。
「あれは……先輩か?」
「うん?」
「一位の人」
「……ああ、うん。同じがっこのひと。服、一緒だったでしょ」
 ヤッコが自分の服を指差して言ってきて、目だけを俺に向けてふふっと笑った。その態度はどこかよそよそしくて、見ている方は面白くない。
「あのひとも、早かったな」
「そうね」
 俺の感想に、ヤッコが相槌を打つ。反応が薄い。話を聞いているような、聞こえていないような曖昧さがあった。別の事を考えている?
「早かったと思うよ」
 ヤッコがはにかむ。女らしい、優しげな笑顔で笑った。

 

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