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ノンジャンル

静かな場所で、会いましょう

   

今はもう使われていない旧体育館倉庫は、私だけの聖域だった。
……けれどもそこに、一人の少女がやってきたとき、愛すべき静寂は破られてしまった。

 

「あっついなあ、もう」
 誰もいない部屋で、私は大声を出す。
 声は響き渡り、こだまして消えた。
 ここは旧体育館倉庫。
 新しい体育館倉庫が出来てから、壊れた道具置き場となった場所。
 綿のはみ出したマットや、壊れた跳び箱。
 足の壊れたハードルや、破れて膨れなくなったボールたち。
 見捨てられ、時間の止まった場所。
 ……そして私がもっとも安らげる場所。
 私だけの、場所。
 私は放課後になると、下校時刻になるまで一人ここにいる。
 本を読んだり、音楽を聴いたり、昼寝をしたり、テストが近くなれば勉強をしたり。
 ここでの時間は、どこまでも自由。
 だから私はここが好き。
 私だけの時間を過ごすことができるから。
「それにしても、本気で暑いなあ……」
 私は鞄からタオルを取り出すと、額に滲んだ汗を拭き取る。
 窓は天井近くに一つだけしかなく、風通りの悪いここは正直蒸し暑く、居心地はよくない。
 しかも長年使われていないせいで、埃とカビの臭いもキツい。
 でも、それでも、私にとってここは聖域。
 私だけの世界。
 だから……。
「好き。暑くても臭くても、ここが好き」
 ボフンと、私は薄汚れたマットの上に横になる。
 もわんと埃が舞うが気にしない。
 埃は払えば落ちるから。
 聖域を支配するのは、静寂のみ。
 体育館裏にこの倉庫はあるのだけど、体育館からはかなり離れた場所に建っている。
 だから体育館で練習している運動部の声も、グランドで練習している子たちの声も、ここには届かない。
 耳鳴りがするほど静か。
 それが、ここの魅力。
「うーん」
 両手両足を伸ばして、欠伸一つ。
 暑さが体力を奪っているせいか、少し眠い。
 外に出て、自販機で冷たいジュースでも買ってこようかな。
 うちわ、家から持ってくればよかったなあ。
 ああ、眠い。
 とても、眠い。
 でもこんな暑い中で眠ったら、きっと身体はだるくなる。
 ああ、でも。
 すっごく、眠い……。

 

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