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ラブストーリー

渚-nagisa-(38)

   

渚高校野球部は、甲子園への切符をかけ、決勝戦に臨んでいた。怪我で欠場した五十嵐、そして前の試合でデッドボールを受け、まともにプレーができない四番に代わり、試合に出場した弘樹。タケルの回復を願い、どうしてもこの試合に勝とうと気合いを入れる弘樹だったが……。

 

渚 第38話 決勝戦

 試験が終わり、いつものようにタケルの元へと足を運ぶいつものメンバー。水泳部である亜里沙は、試験が終わると同時に、今度は夏の大会へ向けての猛特訓が始まる。今日は純也と弘樹、そしてハルカの3人での見舞いとなった。

 タケルが入院している個室のドアを開けると、そこには香織と優の姿があった。二人が病室を訪れた時には、タケルは以前と変わらない様子で眠ったままだったが、若干ではあるが、容態が回復したとタケルの母に聞いた事が頭の片隅にあるのか、二人の目には眠っているタケルの表情が以前よりも明るくなったように映っていた。

 ハルカは暫くタケルの様子を見守った後、バイトがあるからと言って病室を後にした。純也と弘樹も、あんまりタケルに負担を掛けてはいけないと、この日は少し様子を見るにとどめ、ハルカが帰ってから十分程経った頃、香織と優にタケルの事を任せ、病室を出て行った。

 病室を出てから、弘樹と純也の間には会話はなかった。弘樹は試験のあと、野球部顧問の中森に言われた事を考えており、純也はいまだに日本史の試験が全く解けなかった事を悔やんでいた。

 一人は薄ら笑いを浮かべ、一人は深いため息を吐きながら暗い顔をして俯きながら歩いている。道行く人たちはこの二人の対照的な様子を不思議そうに遠くから(奇妙な光景だけに近くで見ることは避けていた)眺めていた。

 自分が今度の決勝戦に出場して活躍し、チームが甲子園への切符を手にすれば、その吉報を聞いたタケルが目を覚ますかもしれない、いや、目を覚まして欲しい、と弘樹の頭の中にはそのことだけが巡り巡っていた。頭の中には自分が決勝戦で決勝タイムリーを放ち、チームメイトが大喜びで弘樹を取り囲んでいる、そんなイメージが湧き上がっていた。

 そんな事を妄想しながら家路を歩いていた時、弘樹が急に『ノー!』変な叫び声を上げた。俯きながら歩いていた純也が弘樹の方を見ると、弘樹は道沿いにある細い溝へと足を落としていた。

「お前何やってんだよ。こんな細い溝に足がはまるなんて、狙っても出来ないぜ」

 純也が溝にすっぽりとはまって抜けなくなった弘樹の足を懸命に引っ張った。なかなか溝から足が抜けなかったが、もう弘樹の足がどうなってもいいやと思いながら思い切り足を引っ張った瞬間、挟まっていた足がスポンと抜けた。

「全く……ちゃんと前を見て歩けよ。溝に気づかずに歩いてるなんて、お前、何か考え事をしてたのか?」

 

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