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ラブストーリー

渚-nagisa-(39)

   

甲子園への切符をかけた決勝戦。渚高校のエースに連戦の疲れが見え始めていた。控えのピッチャーはまだ経験の浅い一年生しか残っていなかった。そんな中、球場にピッチャー交代のアナウンスが響き渡る。エースに代わってマウンドに立ったのは、ずっとトラウマが乗り越えられずにいたあの男だった……。

 

渚 第39話 選手交代

「選手の交代をお知らせします。ピッチャー富樫君に代わりまして、木下純也君。ピッチャー木下純也君。背番号15」
 
 再び純也の名前が繰り返される。静まりかえっていた観客席からどよめきが起こった。いや観客席だけではない。ラジオを通して試合の実況を聴いていたハルカと亜里沙は病室で『えーーーーーーーーーー!』という驚きの声を上げていた。

 純也がマウンドで投球練習をしている。守備についているナイン達に驚いた様子はない。純也の球を受けるキャッチャーの山下も、純也のボールの感触を確かめながら、この交代があたかもあらかじめ決められていたかのように純也へ返球する。

 十球ほど投球練習をしたあと、純也は自分の後ろにいる選手達に向かって両手を挙げ、『締まっていこう!』と大きく叫んだ。思いもしない純也の登場で静まり返っていた球場に純也の声が響いた。

 主審が手を挙げ、試合が再開された。

 純也はグラブの中のボールを強く握り締め、ボールの感触を確認すると、両手を大きく頭上高く上げた。ゆっくりとセットポジションへと入る。力を精一杯貯め、素早く右腕を振り下ろした。

 純也の手を離れたボールはど真ん中へと構えたキャッチャーミットへと吸い込まれる。

 『パシン!』とキャッチャーミットがしっかりとボールを捉えた音が球場内に鳴り響いた。

「ストライーーーーーーーク!」

 主審の判定の声が響く。

 観客席がどっと沸いた。先程まで投げていた富樫のボールとは明らかにスピードが違う。キャッチャーミットがボールを捉える音も、富樫のそれとは別物だった。

 続く二球目もど真ん中へのストレート。透かさずバットを出すが、バットが出た時にはボールがすでにキャッチャーミットへと収まっていた。
 
 ツーストライクノーボール

 

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