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歴史・時代

東京探偵小町 第十二話「あそび歌」 <2>

   

「とても、かわいいオンナノコたちですネ。そして、ちょっとだけにていますネ」
「べっ、別にモデルにしたわけじゃないよ!」

小説版『東京探偵小町
第四部 ―鎮魂編―

Illustration:Dite

 

 応接室のテーブルでは狭いからと、やがて一同は、食堂の中央に据えられた七人掛けのテーブルに移った。
 客人たちが席に着くのを待って、今日は洋装でまとめた時枝が、みどりが手土産にと持参した北陸名産の棒茶をいれる。その横で倫太郎が棹菓子を切り分けているあいだ、和豪たちは、蒼馬の画帳に描かれた四人の少年少女を眺めていた。それは倫太郎と蒼馬が新年から少年誌に寄稿する、冒険活劇小説の主人公たちだった。
「ソーマくん、このナマエはなんとよむのですか?」
「どの人?」
「このかわいいオンナノコのナマエです」
 蒼馬の名前を聞くや「タジさんのクニのカミサマとおなじナマエですネ!」とほめちぎったサタジットは、蒼馬の名前を丁寧に発音しながら、画帳に描かれた短髪の少女を指さした。
 一方の蒼馬は、印度神話のソーマ神とやらがどんな神であるのかはわからなくとも、それが月の神であり、つまりは自分の雅号とも縁があることを知って、早くもサタジットに対する警戒心を解いていた。
「サヤだよ。早い矢って書いて、サヤって読むんだって」
「ムズカシイよみかたですネ。みんな、ソーマくんが、かんがえたのですか?」
「ううん、サクラ書房の金子さんっていう人。どういう趣味なのか知らないけど、剣とか刃とか真弓とか、みんな武器みたいな名前で、ちょっと変なんだよね」
 サタジットは「真弓」「早矢」と名付けられた少女たちと、時枝とみどりの顔を熱心に見比べた。
「とても、かわいいオンナノコたちですネ。そして、ちょっとだけにていますネ」
 倫太郎や和豪が、口にしたくても言わずにおいていたことを、サタジットがさらっと口にする。たしかに、真弓という少女はみどりに、早矢という少女は時枝にどこかしら似ていた。それは自分でも薄々気づいていたことなのだろう、指摘を受けた蒼馬が、瞬く間に顔を赤らめた。
「べっ、別にモデルにしたわけじゃないよ! 金子さんが、こういう感じの女の子にしてくれって言ったからだよ」
 蒼馬の病室で実際に時枝とみどりに出会った金子が、本当にそういった要望を出したのかどうかは、さだかではない。だが、いずれにしても蒼馬の機嫌を損ねる感想だったのだろう。蒼馬はパタリと画帳を閉じると、さっさと自分の背後に隠してしまった。
「ところで、お嬢さんがた。女学院の慈善市に出す品物の相談は、まとまりましたか?」
 等しく切り分けた棹菓子を、大人数ゆえに不揃いなってしまった銘々皿に載せて配りながら、倫太郎が時枝たちに尋ねる。話題が途切れないようにという配慮が奏功してか、時枝がすぐに応えた。
「うん、決まったわ。みどりさんはね、きれいなビーズ編みの花瓶敷きを作ることにしたのよ」
「カビンシキ?」
 今日の時枝とみどりは、来月に迫った、聖園女学院恒例の慈善市に提供する品物の相談をしていた。この慈善市は降誕祭の前日に女学院の講堂で開かれる恒例行事で、生徒たちが一人一品ずつ自作の手芸品を持ち寄り、それを来場者に販売して、売上金を慈善団体に寄付するという、いかにもカトリック系の学校らしい行事だった。

 

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