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歴史・時代

東京探偵小町 第十二話「あそび歌」 <3>

   

「阿呆みてェな話だな。で、その出来たバケモンはどうしたィ」
「始末に困って、高野山の奥に捨ててしまったそうですよ」
「ひでェ話だ」
「ひどいっていうより、かわいそうだわ。そのおばけが」

小説版『東京探偵小町
第四部 ―鎮魂編―

Illustration:Dite

 

 いちごにはこべ、さいかち、むくげ
 揉んで刻んで草と草、塗って絡げて骨と骨
 あの子の左とその子の右が、隣同士で仲たがい
 どの子の何をあげましょか、この子に替えてやり直し

 耳についてしまったのだろう、時枝は夕食の後片付けをしているあいだも、子供たちから聞いた遊び歌を口ずさんでいた。一緒にとねだられた遊び自体は他愛のない「手遊び」だったが、歌詞をよくよくたどってみると、薄気味悪さが漂う。
 だが、子供の遊び歌には、大人が聞くと眉をひそめたくなるものも多々含まれている。子供というものは得てして大人が嫌うような怖い言葉や汚い言葉から覚えるもので、その意味など知らぬまま、普段の遊びに使うのだ。
 だから和豪や時枝は歌の意味など大して気に留めていなかったが、倫太郎だけは、食事中も何やら考え込んでいる様子だった。やがて台所の片付けを終えた時枝が、自室に引き上げる旨を倫太郎たちに告げようとしたとき、倫太郎が「わかりました」とつぶやいた。
「わかったって、なあに? 倫ちゃん」
「先ほどの遊び歌です。どこかで聞いたことがあると思っていたのですが、たぶんこれは西行伝説がもとになっていますね」
「さいぎょう?」
「ああ、あの桜の下で死にてェって言った坊主か」
「それならあたし、古文の時間に習ったわ。願わくは花のもとにて、だったわよね」
 うなずいて、倫太郎は昔の記憶をたどった。
 名のある士族だった生家が没落し、中学校も卒業できなかった倫太郎ではあるが、時に朱門を驚かせるほどの博識さを披露することがあった。幼い頃から和書と漢籍に囲まれて育ち、また自身も読書家だったせいだろう。倫太郎は後に英語と高等数学を独学で学び、それらは府立園芸を卒業した和豪よりも、よほど良く出来ていたのだった。
「うろ覚えなんですが、『撰集抄』だったかな……鎌倉時代の説話集なんですが、そこに西行が骸骨を集めて人造人間を作るっていう話が載っているんです」
「やあだ、怖い」
 食堂から二階へと続く階段を上りかけていた時枝が、足を止めてその場に座り込む。倫太郎から渡された、とある会社員の身辺調査の資料を手にしていた和豪も、視線だけで話の先を促した。
「紫月くんと同じくらいの年頃に、怪談や妖怪話の類としてさらっと読んだだけなので、間違っているところがあるかもしれませんが」
「いいわ、聞きたい。倫ちゃんから聞くのなら、怖くないもの」
「では……話のあらすじはこんなところです」
 そう言って、倫太郎は『撰集抄』に「骸骨を集め人を作る秘術の事」として載っている語をかいつまんで聞かせた。それは人恋しくなった西行が、友人を作ろうと思い立ち、「反魂法」という魔法を試したというものだった。
「まずは野ざらしの人の骨を集めて、木陰に人のかたちに並べます。その骨に水で溶いた砒霜という薬……ネズミ捕りのヒ素ですかね、これを塗って、ヘビイチゴとオニハコベの葉を刻んだもので揉み合わせるんだそうです。草の匂いが立ちのぼってきたら、今度は藤の蔦で骨と骨を編み連ねる」
「おいおい、ンな昔の本に、そんなに事こまッかに書いてあったのかよ」

 

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