幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ラブストーリー

LOTUS 〜Lady Luck〜

   

「あら、藤堂さん、宝くじなんて買ったの?」
「バイト先でもらったんだ。あーあ、1億円なんて言わないからさ、せめて1000円くらい当たってないかなぁ」

LOTUS』 ―真理×日向子:光輝×瑠音―
≪光輝*高等部1年生*1月≫

Illustration:Dite

 

 春からのひとり暮らし。
 ペットがいたら、寂しさも少しは薄れるのかな。

「ま、順調かな」
 年が改まり、3学期が始まって初めての日曜日。
 寮生全員参加で行われる日曜礼拝と朝食を終えた真理は、今日のバイトのシフトは11時から、とすると10時少し前には出掛けなければと思いながら、談話室にも読書室にも立ち寄らず、まっすぐ寮室に戻った。
 部屋に入るや、この「まりあ寮」で唯一個別の鍵を許されている勉強机の引き出しを開け、そこから1冊の預金通帳を取り出す。最近の真理の趣味兼日課は、自分で新しく作った預金通帳の残高を眺めることだった。
 ただいまの預金額は、10万3500円。
 目算通りに行けば、卒業までに27万円くらいにはなっている。ここに、これまで貯め続けてきた小遣いの残りを足すと、80万円ほどだろうか。それが、真理の春からの新生活資金だった。
「バイト、せめて夏休みからできていたらな……100万円あったら、もう少し気がラクだったのに」
 愛情の代わりに多すぎるほどの小遣いを与える父親を恨むこともあったが、中学・高校の6年間で50万円以上の貯金ができたのだから、今はむしろ感謝するべきなのだろう。
 アパートの入居費用や生活必需品を買い揃えるために必要な費用、最初の給料が入るまでの生活費などを考えると、80万円は、決して十分な額ではない。だが、ひとりで生きて行くことを決めた真理にとって、本当に必要なのはカネやモノではなかった。自分を理解してくれる人々の、温かい支えである。そして幸いにも、それだけは十分に揃っていた。
「アタシって、なんだかんだ言っても、結構恵まれてるよね。親にはちょっと恵まれなかったけど、その分、先生と友達に」
 実は、何があっても父親には一切頼りたくないと言い張る真理に根負けして、女学院の養護教諭であり、ただいま寮母代理を務めている吉岡新菜が、これから真理が成人するまでの後見役を引き受けてくれることになったのである。最近ではバイトに明け暮れる真理を気遣って、不動産屋に勤めている友人に連絡し、真理の新居探しを手伝ってくれているほどだった。
 また、親友の日向子の母親姉妹も、真理に非常に協力的だった。亜紀子は真理の新生活に役立ちそうなものを取り集めては早くも段ボール箱に詰めはじめているし、佐紀子は所属モデル事務所のクリスマス・パーティーを手伝った際のバイト代として、ほんの数時間の給仕役には破格の1万円を包んでくれた。
 その上、知り合いの編集者経由で、まだまだ十分に使える中古のノート・パソコンを、最新の画像編集ソフトつきでプレゼントしてくれたのである。雑誌カメラマンを目指す真理にとって、パソコンはデジカメと並ぶ必須ツールなのだが、ずいぶん高い買い物になってしまうだけに、どうしたものかと悩んでいたのである。この贈り物は、何よりもありがたかった。
「ニーナ先生もだけど、おばさまたちもホントに優しくて親切だよね。早く一人前になって、恩返しができるといいな」
 最上級生用の個室に移って以来、格好の話し相手になってくれている黒猫のぬいぐるみに手を伸ばそうとして、真理は「そうだった」とつぶやいた。去年の誕生日に日向子から贈られた黒猫のぬいぐるみを、真理は女学院恒例のクリスマス・バザーに供出してしまったのである。
 時間と財布に余裕があれば、何かを買ったり作ったりして品物を調達したのだが、残念なことに、そのどちらも捻出できなかったのだ。そこで日向子に正直に事情を話し、ぬいぐるみの供出を許してもらったのだった。
 真理がどれほど忙しく、またどれほど切実に新生活の資金作りに励んでいるかを知っている日向子は、もちろん、真理を責めるようなことはしなかった。それどころか、バザー会場で少しでもかわいらしく見えるようにと、ぬいぐるみにパールビーズの首輪を作ってくれたほどだった。

 

-ラブストーリー


コメントを残す

おすすめ作品