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輪っかの外側(中)

   

野球ゲームを職業的に愛好する仲間として、すっかり打ち解けた矢野と天音は、大会を間近に控え、天音の家で特訓に励んでいた。充実した練習ではあったが、ランク差に示される実力差は覆し難く、矢野は敗北を喫し続けていた。そして、天音が部屋を空けたその時、彼女の部屋のクローゼットに異変が……

 

「惜しい。連打はもっと擦るような感じで、ボタンを押す間隔を短くしないと」
「ぬううっ」
 俺は、モニターの中で、鋭い打球が自軍のショートのグラブをすり抜け、サヨナラヒットになる瞬間を見ながら、歯噛みしていた。 初めて会ってから、既に七十戦以上、試合をしているにも関わらず、未だに五勝しかできていない。しかも天音は、明らかに全力を出していないのだ。
(はああ、参った。ランクが違うとここまで差が出るものなのかね)
 俺は両手で頭を抱え込んだ。
 普段だったら、げんこつで床を叩くなりしているところだが、今はそうした事をすることはできない。
 と、言うのも、ここは俺の自宅ではなく、天音の部屋だからだ。何やらマニアックな書籍とオブジェと、可愛らしいぬいぐるみとペットたちが共存している空間は、決して自分の家では見られない。
「ああ、調整不足だね。もう一戦、付き合ってくれるかな」
 ただ、今の俺には、少々ユニークな部屋に気を取られている暇はない。大会が五日後に迫っているのだ。
 三日前から彼女の家に詰めているのも、大会に備えて万全の態勢を整えるために頼み込んだからだが、結論から言えば、実力差に直面し、焦りと不安が増大するばかりというのが正直なところだ。
 基本の動作から複雑なコマンド入力まで、現役のプロは一つ一つが素早く、しかもミスがない。読みも深いし、選手起用から効率的だ。

 

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