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歴史・時代

東京探偵小町 第十三話「氷中花葬」 <3>

   

「何か、ある気がします。こちらが本物でしょうか」
「なかなか味のある気配だね。さては呪いの真珠かな?」
「そんな薄気味悪いもの、僕はごめんですよ」

小説版『東京探偵小町
第四部 ―鎮魂編―

Illustration:Dite

 

 期末試験が終わり、主要科目の答案がすべて生徒たちの手もとに返された土曜日の夜。気がかりだった代数も上首尾に終わり、時枝は久々にゆったりした気持ちで、倫太郎のいれてくれた紅茶の香りを楽しんでいた。
「すごいのよ、今度の試験、西組のみんながいい成績だったの」
「それはそれは」
「御祇島先生も褒めて下さったし、あとで、お休み中の三木先生にお手紙で知らせましょうって、みんなで相談しているの」
 懸命な勉強の甲斐あって、時枝は倫太郎に宣言した通り、二学期の期末試験で良い成績を修めた。実際に成績表をもらうのは聖誕祭明けの終業式になるが、すべての欄が甲と乙で固まっていると見て、まず間違いないだろう。
 もっとも、試験勉強に精を出したのは、時枝だけではない。
 身重の三木に代わり、急遽、四年級西組の担任になった御祇島の激励もあって、西組の三十人は誰もが一学期より良い点をもらっている。これで東組との勝負は一勝一敗、御祇島は大いに面目を施し、西組の三十人もその健闘を御祇島から讃えられたのだった。
「苦手な代数も良く出来ていましたし、成績表が楽しみですね」
「うん。お正月に、道源寺のおじさまに見てもらえるかしらん」
「お嬢さんの元気な顔を見るのが、道源寺警部の生き甲斐ですから。きっとまた、御褒美を下さると思いますよ」
「もう、倫ちゃんまでそんなことを言って」
 見透かされて恥ずかしいのか、時枝が口をとがらせる。
 和豪には「小遣いをもらうために勉強しているのではない」とは言ったものの、出来を褒められればやはり嬉しいし、褒美をもらえれば、なお嬉しい。そもそも朱門が、出来の良さを誉めるときには何か小さな褒美をつけるという習慣の持ち主だったのである。
 道源寺にも同じことを期待しているわけではないが、日本での大切な後見人であり、伯父のように慕う道源寺からであれば、何でも素直に受け取れるというものである。時枝は道源寺に年始の挨拶に行ける日を、指折り数えて待つことにした。
「それより、明日のタジさんとの約束……せっかくみんなで行けると思っていたのに、倫ちゃんが一緒じゃなくて残念だわ」
「もう少し早く連絡をもらえれば、僕も調整ができたのですが……さすがに今日頼まれて、明日が締め切りでは」
 この週末、倫太郎は思わぬ予定変更を余儀なくされていた。和豪を夜稽古に送り出した直後にサクラ書房から連絡があり、先に引き受けた冒険活劇小説の追加原稿を頼まれてしまったのである。
 これまで婦人誌と少女誌に傾注してきたせいか、同じ雑誌とは言え、少年誌の編集には思わぬ勝手の違いがあったのだろう。倫太郎も蒼馬もそれに巻き込まれ、急な番狂わせの穴埋めのために、追加原稿の依頼を引き受けることになってしまったのだった。
「明日までに、うんとたくさん書かなくちゃいけないの?」
「いえ、原稿用紙で十六枚ほどです」
「十六枚も!」
 時枝は驚いたが、『探偵朝日』で筆力を培ってきた倫太郎にとって、量はさしたる問題ではなかった。執筆の場を少年誌に移しての初仕事、何事も最初が肝心だと、そちらのほうで気負っているのである。
「なんといっても、挿絵の担当が帝都に名高い紫月くんですからね。負けないように、僕も頑張らなくては」
「蒼馬くんも、追加で挿絵を描くのかしらん」
「サクラ書房の金子さんの話では、そうなるようです。僕の初稿を待って、白黒の挿絵を一枚」
「倫ちゃんたちのお仕事って、本当に大変なのねぇ」

 

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