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歴史・時代

東京探偵小町 第十三話「氷中花葬」 <4>

   

「切り出すと、透明な硝子の煉瓦のようです。水が良いのでしょう、うちの氷の味は格別だと評判のようです」
「じゃあ、かき氷にしたら、きっとおいしいわね! みどりさん、来年の夏になったら食べに行きましょ」

小説版『東京探偵小町
第四部 ―鎮魂編―

Illustration:Dite

 

「おめェって奴は、ほんとにまァ」
 幾ばくかの不安と緊張をはらんだ試験週間が無事に終わり、その出来に安堵した翌日。サタジットと約束した日曜の午後は、陽の当たる場所ならば意外と暖かい、気持ち良く晴れた外出日和だった。
「なんだってそう、妙ちきりんな取り合わせばっかしやがるンだ。雪でもねェのに、ンな絨毯みてェな毛布を引っ被って出て来る奴があるかよ」
「でも、これをカラダにまくと、とてもアタタカイのですヨ」
 たとえ晴れていても、サタジットにしてみれば、昨日といささかも変わらぬ冬日なのだろう。今日も今日とて盛大に着込んでいるのだが、九段坂下の停車場で顔を合わせた瞬間、みどりがこらえかねたように吹き出してしまったのだから、やはり組み合わせとしては相当なものなのらしい。
「どうです、ステキでしょう。タジさん、フルギヤさんで、とてもよいカイモノをしました」
「どこがいいんでェ。いっつも変なもの掴まされやがって」
 サタジットがその体にサリーのように巻き付けているのは、どこで手に入れたのか、房飾りのついた海老茶色の角巻だった。和豪が荒っぽい口調でずけずけと意見するなか、みどりがつとサタジットに寄り、その角巻に手をかけた。
「ワリーさま、これは毛布ではありませんわ。角巻と申しますの」
「カク、マキ?」
「ええ。わたくしのばあやは、吹雪くような寒い日に、このようにして羽織っておりますわ」
 みどりはサタジットの手から角巻を受け取ると、雪国出身の乳母の仕草を真似て、羊毛で織られた真四角の布を半分に折った。そうして大きな三角形を作ると、サタジットの背にふわりと着せ掛けてやった。
「こうして羽織って、前でかき合わせて下さいな」
「ヤーヤー、さっきより、もっとアタタカイです!」
「ったく、見てるだけで暑ッ苦しい」
「ワゴーくんは、そんなウスギで、さむくないのですか」
「俺ァおめェとは鍛えかたが違う。これで十分なンだよ」
 そんな青年たちの隣に立つ時枝は、今日は洋装でまとめ、上海で愛用していたという上品なコートを羽織っていた。
 時枝が通っていた仏蘭西租地のカトリック女学校は、制服のみならず制帽や制靴まで定めるほど校風が厳しく、このコートも制服の一部だったのだという。その証拠に、コートの左胸には、横文字や十字架、マーガレットを縫い取った美しい校章が入っている。その花に合わせたのだろう、時枝は校章の斜め上あたりに、七宝焼きのマーガレットのブローチを飾っていた。
「時枝さまのコートは、上海の女学校のものですのね」
「うん、色は大人しいけど、軽くて着やすいからお気に入りなの。みどりさんも、たまにはどう? お洋服」
「わたくし、似合いませんもの」
「そんなことないったら! あたし、ダンスの授業でみどりさんがどんなお洋服を着るのか、すごく楽しみにしているのよ」
「困りましたわ。わたくし、やはり冗談だったのだと思って、安心しておりましたのに」
 途中で担任の交代劇があったため、時枝をはじめとする四年級西組の面々は、秋口に御祇島が提案した「皆さんのダンスの腕が上がったら、洋服を着て踊ってみましょう」という話は立ち消えになったものと思い込んでいた。
 だが、当の御祇島には、そんなつもりは毛頭なかったらしい。
 終業式前の最後の授業で、時枝たち四年級西組の面々は、全員が洋装で授業に臨むことになったのである。いつも通りの着物姿で、山茶花の羽織をまとったみどりがその不安を訴えるうちに、一同は本日の目的地である市ヶ谷に着いた。

 

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