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ノンジャンル

輪っかの外側(後)

   

「敗北したら吸血人種に」という、美潮の提案を受けた矢野だったが、事前に示された圧倒的な力の差の前に大苦戦を強いられ、しかも、既に開始されてしまった勝負は、天音の仲裁すら通じない性質を帯びていた。
だが、絶体絶命の窮地に追いやられた矢野に、「一打席勝負」を美潮は提案。少年は、これまでの経験とプロ選手としてのプライドを賭けて、投げ込まれる剛球に対して、渾身の力で応戦する……。

 

 えらいことになった。
 率直に、俺はそう感じた。大概の連中相手だったら、どんな条件を突き付けられても、このゲームだったら、切り抜けられるはずなんだが、全然そんな気はしない。
 実際、さっきの一発がまぐれではない証拠に、渾身のキー操作を働かせた、縦横にぶれるスローカーブとスライダーも、綺麗にセンター前に運ばれてしまった。
 相手の四番バッターに対して、早くも投げる球が無くなってしまった感じである。
「ぬくっ、あ、あんた、何者……?」
「別にいいじゃない。それより、画面に動揺が出ているわよ」
 テレビ画面の中のピッチャー、つまり俺が操作するキャラは、指の小さな震えを反映するかのように、動揺を露わにしている。
 ほんの僅かな手先の震えや緊張によって、まるで現実に野球選手が動いているかの如く、細かな挙動を発揮するのは、このゲームの売りの一つだが、上級レベルの試合では、動揺を表面に出してしまうと、まず勝てない。
 僅かなキー操作のミスで、五キロ、十キロ球速に違いがでてしまうほど、これは繊細なのだ。
「ああっ! 何やってるの、お姉ちゃん!」
 半ば破れかぶれで直球を放ろうとしたところで、バタンとドアが開き、天音の声が響いた。だが、俺は振り向かない。
「何って……勝負よ、本気の。負けたら彼は、私たちと同じ仲間。吸血人種になってもらうって話で」
「無茶よ! 横暴だわ! 矢野君がお姉ちゃん相手に勝てるわけないじゃないの」
「互いに合意の勝負よ。それに、開始されたら割り込めないのがルールよね」

 

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