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SF・ファンタジー・ホラー

窓際騎士、魔族に会う(前)

   

長年の統治の結果、建国当時の理念から外れ、私腹を肥やす騎士や貴族が溢れる事態となったヴェスランド伯国の中にあって、ウェイン・シェイドは、清廉潔白にして領民のことを思いやれる希少な存在だった。が、それ故に上層部から敵視され、隣国の「魔族自治国」に、戦争を煽るための目的で「使者」として入国せよとの指令を受けることになる。
 ウェインにとって、決して飲めるような条件ではなかったが、徴税や治安を担当する騎士たちに、「この任務を拒否するならば、今まで君が反対してきた様々な法律を通すだけだ」と、国民生活に直接的な負担を強いることを対案として出された以上、「使者」としての体裁を保ち、「魔族自治国」に潜入する以外に、ウェインにとって選択肢はなかった……

 

「金、恵んでくれねえか? 持っているんだろ、騎士さんよ」
 流行りの虎の絵が施された服と、落ち着いた色合いながらも、堅牢で高級であることがすぐに分かるマントと家紋をあしらったワッペンを胸に付けた若い男の前に、数人の男が立ちふさがった。
 身なりは汚らしいが、単に自堕落な生活を送っていたわけではないということを、彼らの顔に刻まれた刀傷が示していた。
「いや、私は裕福ではないんだ。君達とほとんど変わるところはないよ」
 若い男は、正直に説明したつもりだった。しかし、その言葉は、顔に傷を刻んだ男たちの、感情を瞬時に昂ぶらせた。
 そして、手に持っていた武器を向け、騎士へと突っ込んでいく。
「ふざけるなっ! 俺たちの何を知ってるって言うんだ!」
(これは、手厳しいな……)
 騎士は、攻撃よりも男たちの反応に頭を悩ませるほどに余裕があった。彼らの持っている武器もひどく、途中で折れた太めの矢に、槍の穂先をくくり付けたものでしかない。
 若い男は突くというより伸びてきたと言った方がいいその武器をぎりぎりの所で外し、木の柄の部分を、脇でしっかりと抱え込んだ。小さく息を吐き、力を入れただけで、弱っていた木は簡単にへし折れた。

 

-SF・ファンタジー・ホラー

窓際騎士、魔族に会う<全3話> 第1話第2話第3話

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