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歴史・時代

東京探偵小町 第十四話「主従二組」 <1>

   

「わあ……思っていたより、ずっときれいだわ」
「本当に、硝子みたいですのね」
「どうしたら、こんなにきれいな氷が作れるのかしらん」

小説版『東京探偵小町
第四部 ―鎮魂編―

Illustration:Dite

 

 猫に氷室は寒いだろうと、時枝は銀猫に「ついてきちゃだめよ」と繰り返し言ってやったものの、銀猫は少女たちの足もとにまとわりついて離れようとしなかった。かわいそうに思ったのか、ついにみどりが銀猫を抱き上げ、山茶花を散らした羽織の袂で覆った。
 やがて氷室の前まで追い付くと、サタジットもやはり先日の銀猫だと思ったのだろう、驚きの色をあらわにする。この銀猫とはよほど反りが合わないと見えて、和豪があからさまに嫌そうな顔をするなか、時枝たちは川添が案内する氷室に入った。
「舞踏劇の公演は十二日間、氷像は四日に一度、新しいものに替える予定です」
 古びた角燈を手に進む川添が、ぽつぽつと説明を加えていく。それに続く時枝と和豪の手にも、氷室のなかは陽が射さないからと持たされた、小さな角燈があった。
「人魚像だけは期間を通じて展示したいとのことでしたので、予備を含めて四体用意してあります」
 川添商店の氷室は、雑木林の急斜面に横穴を掘って作った、時枝たちの予想以上に大きなものだった。北斜面とあって陽が射さず、雑木林に入った途端、寒さが増したように思える。夏場も木立に埋もれるため、氷室を作るにはもってこいの場所だと言えた。
「どうぞ、御自由に御覧下さい。普通の氷も積んでありますが、左の部屋に氷中花が、右の部屋に氷像が入っています」
 川添は鉄扉の南京錠を開けると、時枝たちをなかに招じ入れた。氷室の内部は古代の遺跡を思わせる石造りで、狭い通路の向こうはさらに二つの小部屋に分かれている。身震いするような冷気のなか、案内されるまま左側の小部屋に入った時枝は、美しい氷の小芸術を前に感嘆の声を上げた。
「わあ……思っていたより、ずっときれいだわ」
「本当に、硝子みたいですのね」
 そこに並ぶ大小の氷中花は、たしかにみごとなものだった。曇りのない、透き通った硝子のような氷のなかに、色とりどりの花々や、金箔銀箔を散らした千代紙を使った、かわいい折り紙細工が入っている。それらが角燈のあかりに照らし出され、幻想的とも言える雰囲気を醸し出していた。
「どうしたら、こんなにきれいな氷が作れるのかしらん」
「不純物の少ない良質の水をゆっくり凍らせると、美しい氷が出来上がります。花は、生花を使うこともありますが、良いものが見つからなくて……今回は造花を使っています」
 時枝は川添の説明を聞きながら並べられた氷中花を熱心に見つめていたが、予想以上の寒さがこたえたのだろう、みどりが途中からふっつりと口を閉ざした。それに気づいたサタジットが、臙脂色の角巻を自分の肩から外し、みどりに着せかけた。
「ワリーさま……すみません……………………」
「マハラーニ、タジさんとミドリさんは、とてもさむくなってきました。まだトチュウですけど、サキにソトにでていますネ。ゾウキバヤシの、イリグチでまっていますヨ」
「ごめんなさい、あたし、つい夢中になっちゃって」
「マハラーニは、ゆっくり、みてきてください」
 猫一匹では懐炉代わりにはならなかったのか、和豪が角燈を持ち上げて顔色を確かめてみると、みどりは寒さのためにくちびるの色まで失っていた。和豪が自分の持っていた角燈をサタジットに預けるなか、時枝も慌ててみどりのそばに寄る。みどりが小声で「大丈夫ですわ」と答えるのと同時に、みどりの腕に納まっていた銀猫が、ふいにそこから飛び出した。

 

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