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歴史・時代

東京探偵小町 第十四話「主従二組」 <3>

   

「納得……先生は、あれで良いと」
「ハイ。ミスターは、リンタローくんとワゴーくんを、ココロからシンライしていたのです。だからミスターは、ウラミも、ミレンも、のこさなかったのだとおもいます」

小説版『東京探偵小町
第四部 ―鎮魂編―

Illustration:Dite

 

 御祇島に「寄り道をしないように」と言われたものの、臥せっているみどりの顔を見ないで帰るわけにはいかない。昼休みに作った今日の板書の写しも届けたくて、時枝は九段上で電車を降り、松浦邸に寄った。
 和豪に「この寒いなかを連れ歩くからだ」と言われ、大いに反省していた時枝なのだが、みどりの発熱は幸いごく軽いものだった。どうやら、みどりの「じいや」でもある家令の樋口が、症状をやや大げさに言ったものらしい。
 それでも、大事を取って女学校を休み、暖かい部屋で大人しく過ごしたのは正解だったに違いない。時枝が松浦邸の女中に取り次ぎを頼むと、みどりはいつもと変わらぬ笑顔で時枝を出迎えた。
「時枝さま」
「良かった、お熱はもう下がったのね」
「ええ、もうすっかり良くなりましたわ。時枝さまには、御心配をおかけしてしまって」
 ネルの寝巻に毛糸編みの肩掛けを羽織り、大きな寝台に納まって本を読んでいたみどりが、申し訳なさそうに言う。時枝はすぐに寝台のそばに寄り、みどりの顔色を確かめた。
「ううん、あたしのほうこそ、みどりさんに悪いことをしちゃったわ。せめてものお詫びに、今日の板書を写してきたの」
 すすめられた椅子に腰かけながら、時枝は樺色の風呂敷をさっと開き、板書の写しと、二人の大切な宝物でもある藤色の日記帳を取り出した。それをありがたく受け取り、みどりは、明日は普段通りに登校すると約束した。
「だったら、明日はあたしが朝のお迎え役になるわね! そうして九段上から電車に乗って行きましょ」
「ええ」
「でも、無理はしないでね、みどりさん。いつ雪が降ってもおかしくない時分に、あんなに寒いところに連れて行ったのがそもそもの間違いなんだって、今朝、わごちゃんに叱られちゃった」
「まあ、そんな」
「あたしも、しばらくはおうちで良い子にしていなくちゃ。明日は川添さんのところに行く約束をしちゃったから、だめだけど」
「時枝さま、明日も市ヶ谷にいらっしゃいますの?」
 みどりに尋ねられ、時枝は昨夜からの出来事を話して聞かせた。ブローチを失くした話に始まり、やがて話題が川添の亡妹に及ぶと、「生きていれば同じ年頃だ」と聞いていただけに、みどりが表情を曇らせた。
「帰りの電車のなかでいろいろと考えてみたんだけれど、川添さんの妹さんって、その亡くなった妹さんだけだと思うの」
「そうですわね……あのお話を聞く限りでは、わたくしもそうだと思いますわ」
「川添さんがどういう意味で『妹を助けてほしい』って言ったのか、良くわからないんだけれど」
 時枝はついさっきの御祇島との会話を思い出し、御祇島が自分の考えを認めてくれたことに少しく励まされながら言葉を継いだ。
「たとえばお焼香をさせてもらうとか、妹さんが亡くなったときのお話を聞いてあげるとか、そういうことで少しでも役に立てないかと思って。だからあたし、明日また市ヶ谷に行こうと思うの」
 そう話す時枝に賛同を示しながらも、みどりはどこか不安そうにかすかに眉を寄せたまま、やがて「もし、お邪魔でなければ」と同行を申し出た。
「でも、みどりさん、病み上がりなのに」
「大丈夫ですわ。気をつけて、暖かくして参りますから」
「ほんと? みどりさんと一緒なら、あたしも心強いわ」
 再訪するに当たって、川添は「できれば一人で」と言っていたが、そのあとに「探偵小町さんや昨日一緒にいらしたお嬢さんのような、同じ年頃のかたなら」とも言っている。ならば、みどりを伴うのは問題ないだろうと解釈して、時枝は二人で出掛ける約束をした。
「じゃあ、明日、みどりさんのお熱が下がっていたら」
「ええ」
 川添の頼みが不可解である以上、市ヶ谷を再訪する経緯を正直に告げたら、倫太郎と和豪が心配するに違いない。そういう意味でも、みどりが一緒に来てくれるのはありがたかった。どちらともなく、ほっとしたような微笑を浮かべるなか、みどりの部屋の壁に掛けられた瀟洒な時計が五時を告げ、時枝は慌てて席を立った。

 

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