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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

秘密-すれ違う二つの心-(22)

   

智美の携帯のデータを書き換えた亮介。
メールの内容を書き換えることなど、普通の人ができるはずがない。そのことで彼のことを不審に思う智美。彼女のそんな気持ちを察知したのか、亮介は事情を説明するのだが……。

 

秘密(22)

「実は私はとあるコンピューター関係の会社に勤めていまして……」

 亮介さんの言葉にドキッとした。夫と同じ職種であると知り、頭の中に一瞬、夫の顔が浮かんだ。私の心の中にはまだ、夫を裏切れないという気持ちがあるのだろう。

「どうかしましたか?」

 亮介さんに話しかけられ我に返る。彼は心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。

「い、いえ。何も……」

「そうですか。あ、さっきの話の続きですが、私はコンピューター関係の仕事に就いていまして」

「それでこんなすごいことができるんですか?」

「あ、いえ。すごいのは私じゃありませんよ。会社の者に頼んで、このプログラムを作ってもらったんです。
彼はSEとしてもプログラマーとしても最高の腕を持っていますからね……あ、こんな難しい話をしても面白くないですよね。ごめんなさい。
せっかくマキさんとこうしてお話できる機会が巡ってきたのにこんな話をしてしまって……」

 亮介さんは頭を下げたあと、ニコリと笑った。笑った顔も雄治とそっくりである。その笑顔に懐かしさがこみ上げ、胸が熱くなった。
 これ以上、雄治のことを思い出したら、亮介さんの前で泣いてしまうかもしれない。私は努めて話題を現実へと引き戻そうとした。

「亮介さんは、外に出る仕事なんですか? 私と会う時間を取れるというのはやっぱり外回りのお仕事をしていらっしゃるとか?」

「それはご想像にお任せします。あまり私の正体を話してしまうのも現実すぎてイヤですし……。私は夢を見ていたいんですよ。マキさんとお話しているだけは、現実を忘れて、夢を見ていたいんです。
でも……正体が分からないのはあまりにも怪しいですよね。少しだけお話します。こう見えても、私は会社ではそれなりに期待されている存在でして……結構色々なことに自由が利くんですよ」

 亮介さんはそう言うと、子供が何かを自慢するときのようなニンマリとした表情を浮かべた。落ち着いて見える彼のそんな少年の様な仕草に、私は胸がキュンと締め付けられるのを感じた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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