幻創文芸文庫 (β)

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SF・ファンタジー・ホラー

能力バンク 即時融資課(上)

   

優れた才能を持ちながら、さぼり癖によって、力を発揮できないでいたベテランボクサー吉田 巧は、試合によって網膜にダメージを負ったことにより、強制的に引退させられようとしていた。

感情のやり場のない吉田は、「リザーブ」という酒場に入り、酒をあおっていたが、店の中でふいに、二人組に声をかけられる。男たちは、才能がありながらも力を発揮できていない人に「能力」を「融資」する「能力バンク」の一員で、「即時融資」を担当しているのだという。そして、吉田を「有資格者」だと指名するのだ。

魅力ある話に心惹かれながらも、怪しげな申し出を信頼できない吉田。しかし、能力バンクの「行員」たちが手を差し出すと、たちまちのうちに、網膜にダメージを負った吉田の左眼は、完全に回復してしまうのだった……

 

 とある街の繁華街、さほど規模は大きくないが、それでも、少ない娯楽を欲して、男たちが集うために、常にある程度のにぎわいを見せている。
 パチスロ、キャバクラ、そして風俗店、どこでも見られるようなラインナップではあるが、ネオンで照らされた看板を横目に歩く男たちの表情は明るい。
 だが、そんな何ということもない喧騒が、吉田 巧には、耐えられないほど重く響いていた。
「ふん……」
 吉田は、街を行く男たちに、軽く嫌みのこもった視線を投げかけた。僅かに相手から顔を逸らしているので、眼が合ってしまい、喧嘩になる心配はない。だからこそ、悪態をつけるのだ。
「くそっ」
 自分の、態度一つ取るにも、無事であるという保証を必要とする小心さに、吉田は声を荒げた。
 どうにも、気分が収まってはくれない。夜風は頬に冷たいのに、心までは冷えない。気持ちをごまかすには、もっと別の要素が必要だった。
「ここに、するか……」
 街をふらふらと歩き回り、吉田は、裏通りの一画に、「リザーブ」という、小さなバーを発見した。通りを包む熱気から疎外されたように寂れた雰囲気が漂っていて、木目調で統一された外観も、歴史の重みがあるというより、単に古ぼけたと表現した方が的確な感じだ。
 吉田は、ためらわずに店のドアを開けた。やや、さびつきが見える小さな鈴が、ちり、と、不景気な音色を立てる。

 

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