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SF・ファンタジー・ホラー

能力バンク 即時融資課(中)

   

自分の視力の回復という事実に、「能力バンク」を名乗る男たちの力の確かさを感じ取った吉田は歓喜のテンションを保ったまま所属ジムに報告の電話をかけた。

当初は半信半疑といった様子だったジムの会長、郷原も、眼科医から、吉田の視力が奇跡的に回復したとの知らせを受けると、我が事のように喜んでみせた。しかし、視力が回復したからと言って、もうすぐ三十四歳を迎え、しかも「天才」という評価を得ている吉田に、恵まれた条件の試合が回ってくることは考えられなかった。ただ、それでも枠が余っているところにねじ込む形であったため、試合をすること自体は問題はなかった。

対戦相手は、吉田の友人、折口だった。豊橋たちを呼び出した吉田は、折口が自分よりも素質に乏しく、最近では練習もままならない状態にあることを知りつつ、ボクサーとしての保身のために、何のためらいもなく、更なる「融資」を自分にしてくれと豊橋に頼み込んだのだった……

 

 吉田は、膝の震えを抑えることもできず、周囲を見回した。あまりにも鮮やかで、くっきりと、あらゆるものが視界に飛び込んでくる。パンチの嵐によって摩耗していない若い頃よりも更に、視力が増しているのは、間違いなかった。
「なんなんだ、なんなんだよ、こりゃあ……!」
「差し当たり、あなたにとって最も必要な視力と眼の機能を向上させたのですよ。今の状態で眼科医にかかれば、網膜云々の問題は解決ですな。引退させられる心配もありません」
 叫び出しそうになっている吉田に向かって、豊橋は笑みを絶やさず、淡々と解説を加え、右手を差し出した。
 ほとんど反射的に、吉田は、豊橋の右手を握っていた。彼らの力がインチキで無いことは、直感的に理解することができた。
 何より、吉田は信じたかった。今まさに、望まぬ形でボクサー人生に別れを告げようとした自分に、救いの手を差し伸べてきた連中が、からかっているだけだったなんて、想像もしたくはなかったのだ。
「いや、凄いわ。信じるよ。体験しちまったもんはしょうがねえからなあ」
 照れ隠しのように吉田が付け加えると、豊橋はうんうんと頷きつつ、さらに吉田に向かって口を開いた。
「とりあえず、今日はこんなところにしましょう。あなたは、ドクターに診断書を新しく作って頂いて、ジムに復帰を認めさせて下さい。本格的なプランは、その後の展開に応じるという感じで。この店においでになるか、電話でご連絡を」

 

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