幻創文芸文庫 (β)

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SF・ファンタジー・ホラー

我が主君!!【5】

   

※作品中にガールズラブ的展開があります※

「あたしを呼び捨てにするなんて、アンタだれ――と思ったけど、思い出した。その趣味の悪い甲冑は、武藤家の郎党の加部三郎兵衛ね」
「ほざくか、小娘が」
甲冑をまとった加部三郎兵衛と向き合った香子。言葉での応酬ののち、怨霊たちと斬り合いになり、見事な薙刀さばきを見せる。
手勢を失った三郎兵衛は、「気に入らぬおなごじゃ」と言い残して消え去って…。

 

「あたしを呼び捨てにするなんて、アンタだれ――」
 と言いさして、香子は鼻で笑った。
「思い出した。その趣味の悪い甲冑は、武藤家の郎党の加部(カベ)三郎兵衛ね」
「ほざくか、小娘が」
「今は小娘の姿だけど、あたしの中身は長峰太郎次郎でもあるんだってば。アンタ、自分でさっきそう言ったじゃない。それより、アンタが今回の大将なわけ? ショボいなぁ」
「減らぬ口は相変わらずか。転生しても人の器がそう変わるものでもないと見える。前(サキ)の世では長峰四天王などと呼ばれて大暴れしたおぬしも、今となっては得物(エモノ)は薙刀一振り、鎧もないとてさぞ不安ではあろうが、そうかと言ってわしのこの見事ないでたちに文句をつけるとは図々しい」
「そーいうことじゃなくって、ホント趣味悪いって、その鎧。アンタみたいな顔と体型で色々威(イロイロオドシ)なんて、あたしの美的センスからするとあり得ないよ。多色遣いがしたいなら、例えば逆沢瀉威(サカオモダカオドシ)とか、黒か紺辺りで威して褄取りにするとか……。兜のそのでっかい鍬形もバランス悪いし、きょうは馬いないけど、例のキンキラキンの鞍も超悪趣味だったよねぇ」
 緊張感に満ちているはずの場面で、妙に緊張感なく会話する二人の様子を、みちるは、建物の壁にぴたりと寄ってハラハラしながら見ている。辺りはまた今回も、いつの間にやら灰色のもやが巻いている。
「やかましい。おぬし、女になったせいで口ばかり達者になったわ」
「口ばっかじゃなくて、武芸も結構なもんよ、あたし」
「そろそろ口を閉じよ。そしてさっさと御曹司をこちらへ渡せ。我ら一党、御曹司を旗印と成し、源氏を再興するのだ」
「ざーんねん。あそこにいるあの子は諏訪みちるであって、衣伏山の御曹司じゃないよ?」
「外の器はな。だが、魂は御曹司のものだ。ようやく見つけたのだ」
「みちるちゃん、もう十七よ? 御曹司の魂探すのに十七年もかかったわけ? 人手はあるんだろうに、相変わらずダメな奴らばっかりなのね。そんなだからアンタんとこの軍勢は三筋川の合戦でへなちょこの蒲生(ガモウ)八郎軍に負けたりすんのよ」
「黙れ!!」
「あれ、怒った?」
 香子は黒目の大きな目をまたたいて、小首を傾げた。その、人を食った恐れげのなさに、三郎兵衛は歯噛みする。
 構わず香子は、ショートヘアの頭を軽く振って、つづけた。
「ってゆーか、最近図書館で資料読んだら、武藤一族って、鎌倉幕府に源氏の直系の子孫がいなくなったあとで北条氏と政権争いして負けて滅んでたのね。なのに今さら源氏の再興とか言っちゃって、みっともないよ? 第一、そんな企みのために大事な御曹司を渡せるはずないでしょ?」
「黙れと言うに!! かつても長峰太郎次郎はなにかと目障りだったが、転生してまでも生意気を吐き、わしの邪魔をするのか!!」
「そのとおりよ。それに、過去世のあたしもアンタのことはわりと嫌いだったから、お互いさまね」
 三郎兵衛はキリキリとまなじりをつり上げた。手にしていた軍陣用の扇を振り上げ、喚いた。
「言いたいことはそれだけか! ならば、者ども掛かれい!!」
「受けて立つよ!」
 香子は言うや、堂に入った仕草で薙刀を振り上げた。

 

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