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SF・ファンタジー・ホラー

我が主君!!【10】

   

※作品中にガールズラブ的展開があります※

藤原衣七郎こと源鶴七郎は、実は源氏の棟梁・源義朝の子息だった。ゆえあって長峰太郎に預けられた衣七郎は、そこで三郎二郎らとともに育ち、元服した。
それらのことを全て思い出したみちるは、その後、過去世における合戦の夢を見る。
三郎二郎らの無事を祈って身悶えつつ、目を覚まし、乱世に生まれた己を恨んだ過去世のつらさに涙を流す…。

 

 藤原衣七郎朝尚こと、源鶴七郎朝尚は、言ってみれば長峰の家の掛人(カカリウド)だった。
 鶴七郎の父は、源頼朝・義経らの父でもある源義朝。鶴七郎は、実質上はその八男に生まれたものの、母親の身分が低かったために存在を公にされることなく、義朝は、信頼する郎党である長峰太郎武興に母子ともに預けて、大事に養育せよと命じた。幼名を若竹丸といった鶴七郎が、長じても八郎と名乗らずに鶴七郎と半端に名乗らざるを得なかったのはそういうわけだった。
 若竹丸は十三歳で元服した。烏帽子(エボシ)親は長峰太郎が務めた。このとき、諱(イミナ)は『朝尚』、字(アザナ)は『鶴七郎』とされた。この諱と字は、実父源義朝が生前に長峰太郎に託しておいたものだった。平治の乱で敗れた義朝は、平治二年正月に三十八歳で歿している。すなわち、若竹丸の加冠(カカン)の際にはすでにこの世になかった。
 元服ののち、源氏嫡流の血を受け継ぐ鶴七郎の正体がむやみに世間に広まらないようにと、長峰の人々は、鶴七郎に『藤原衣七郎』という仮の名を名乗らせた。これは、過去に長峰氏のあるじであった藤原秀郷の姓に、長峰の領地内にある優美な姿の丘・衣伏山の“衣”を組み合わせた名前だった。

 若竹丸がその母に抱かれて武蔵長峰の地にやってきたのは、若竹丸二歳の秋のこと。そのとき、やがて小太郎興国と名乗ることになる幼児が数え六歳、その弟が四歳だった。若竹丸と同年である、のちの三郎二郎は数え二歳、年子であるその弟は、わずか一歳。
 西国訛りのある、若竹丸の母親は、線の細い人で、とりたてて美女ということはないものの、だれにでも丁寧に接する、心根のやさしい人だというのが、長峰の人々のあいだでの専らの評価だった。
 そして、このとき、若竹丸の乳母役を受け持ったのが、三郎二郎と三々郎の実母である絲(イト)であり、したがって、三郎二郎たちは御曹司の乳母子となった。
 若竹丸と母親は、当初はひとまずあり合わせの屋敷に住み、一方で長峰太郎は二人のための館を、衣伏山の麓のやや小高くなった景色のいい場所に、急いで普請した。
 翌年の夏にそれが完成すると、母子はそこに移り住んだ。これにより、長峰の人々は若竹丸――のちには衣七郎――のことを『衣伏山の御曹司』と呼ぶようになった。
 若竹丸の母親は、若竹丸が元服する前、彼が十一の歳に、病気で亡くなった。若竹丸は悲しんだ。長峰の人々は以後、肉親の縁に薄く生まれたこの少年のことをいとおしんで、ますます大事に育てたのだった。

 

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