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ラブストーリー

LOTUS 〜You are my sunshine〜 <前>

   

わたしねー、真理ちゃんにー、チョコレート色のフェルトでコースターを作ってあげようと思うんだー。チョコレートを用意する時間もないしー……コースターでもー、喜んでくれるかなー」

LOTUS』 ―光輝×瑠音:真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*2月≫

Illustration:Dite

 

 好きです。
 あなたはアタシの、春の日差し。

真理

 名前を含め、たった3行の短い手紙。
 それを、いったい何度読み返したことだろう。
 瑠音の「バレンタイン退院」を翌日に控えた夕食の席、母親に呼ばれるままダイニングの定位置に着きながらも、日向子は胸がいっぱいで何も食べられなかった。目の前では幼い頃からの好物であるかぼちゃのスープが湯気を立てているが、スプーンを取ることすらできなかった。
「日向子、冷めるわよ」
「はーい…………」
 なんとかひと口と思ったものの、やはり今は、真理からもらった手紙のことしか考えられない日向子である。ため息をついたようにも見える愛娘を見て、陽一が心配そうに問いかけた。
「日向子、どうしたんだ。具合でも悪いのか」
「うーうん。わたしねー、おなかいっぱいみたーい」
「あらあら。またお見舞いに来てくれたみんなと、お菓子ばっかり食べちゃったんでしょう」
 そういうわけではないのだが、日向子は曖昧にうなずいておき、スープは明日食べるからと席を立った。
「姉さん、体調は?」
 やや言葉足らずな聞きかただが、光輝も「もしかして、鎖骨の傷が痛んで食べられないのでは」と心配したのだろう。日向子は首を振って、愛弟の頭をそっとなでた。
「大丈夫だよー。今日はほんとにー、おなかがいっぱいなだけなんだー。こーちゃんはー、いっぱい食べなくちゃだめだからねー」
「そうよ、光輝。ほら、もうひとつ取りなさい」
 亜紀子がバターロールを山盛りにしたバスケットを差し出し、光輝が素直に手を伸ばす。瑠音の意識が戻るまで何も口にしない日々が続き、両親をはじめ周囲をハラハラさせた光輝だが、普段は好き嫌いなく、なんでも食べるタイプである。持たせている弁当もこの頃はきちんと空になっていることから、亜紀子は、光輝はもう心配ないだろうと見ていた。
「お母さーん、これー、明日の朝ごはんに食べるねー」
「わかったわ。片付けなくていいわよ、お母さんがやっておくから」
「はーい。ごちそうさまでしたー」
 日向子は先に自室に戻ることを家族に告げると、ダイニングの扉をそっと閉め、今度こそ本当にため息をついた。甘い切なさの入り混じるため息と共に再び蘇るのは、真理から贈られた、たった2行の短いメッセージだった。
「…………お返事、しなくっちゃー」
 パタパタとスリッパを鳴らして階段を上り、日向子は自分の部屋に入るや、すぐさま机に向かった。二番目の引き出しから女学院のチャリティ・バザーで買ったバラ模様のレターセットを取り出し、いざとペンを取ったものの――日向子の動きは、そこでピタリと止まった。
「そういえばー、明日はバレンタインなんだよねー」
 本来なら、今年も瑠音と共に準備にいそしみ、光輝や真理はもちろん、かわいがっているカスタム・ドールたちにまでチョコレートを用意するはずなのだが、今日の今日まで、そんな余裕などひとかけらもなかったのだ。日向子は眉を寄せてしばし考え込み、やがて机から離れ、ベッド側にあるクローゼットを開けた。

 

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