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SF・ファンタジー・ホラー

我が主君!!【12】

   

※作品中にガールズラブ的展開があります※

寿永2年2月の合戦で、三郎二郎は討ち死にした。三々郎に手渡された彼の遺髪を手にして、衣七郎は泣いた。

やがて、頼朝の鎌倉政権が確立するのを見届け、衣七郎は長峰の地を出て出家した。
三郎二郎らの後世を願いながら余生を送った衣七郎は、死の間際、「今ひとたび三郎二郎たちと同じ蓮の上に生まれ直し、いくさなき日々をともに生きたい」と呟く…。

 

 下野国野木宮(ノギノミヤ)周辺にて争われた寿永二年二月のいくさは、鎌倉を根拠地とする源頼朝と、彼の叔父に当たる常陸国の有力武将・志田義広とのあいだの勢力争いだった。
 このとき、自ら動けぬ状況にあった頼朝は、配下の下河辺行平と小山朝政に対応を命じた。
 のちに野木宮合戦と呼ばれることになるこのいくさは、経緯の中で双方に多くの死傷者を出しつつも、鎌倉方の勝利に終わり、志田方に加わった者たちの所領はすべて頼朝が召し上げ、手柄のあった者たちに恩賞として与えられた。
 そしてこれ以後、関東では鎌倉に反抗する勢力はなくなった。
 野木宮のいくさは、頼朝の関東支配の掉尾(チョウビ)を飾るものとなったのだった。

 小山朝政からの加勢の要請を受け、鎌倉方に加わって戦った長峰氏においても、合戦ののちには、今までの所領と同じほどに広い新たな所領が与えられた。
 だが、恩賞とは、軍功と引き替えのもの――。
 本領の再安堵、および新たな領地を下賜された代わりに、長峰の家は大きな痛手を負った。
 痛手。
 それは、このたびのいくさで敵方の名のある将を複数討ち、その手柄を認められた当の本人たちの命そのものだった。

 二月二十五日の夕刻。
 長峰の郷に早馬が入った。
 日向の館に詰めていた留守居役の長峰三郎、同四郎、そして衣七郎は、使者の報告に言葉を失った。

 太郎次郎、深手。
 三郎二郎、討ち死に。

 体中の血が一気に下がるような心持ちを、衣七郎は覚えた。
 だが、己の立場を知っているからこそ、取り乱すことはこらえた。
 三郎二郎の父親である長峰三郎が、見たことのない表情に顔をゆがませて衝撃に耐えているのを見ながら、報告が誤りであってくれればいいと願っていた。

 だが、悲報は誤りではなかった。
 頼朝御前にての論功行賞も済み、二月晦日(ミソカ)になって軍勢が長峰の地に戻ってきたとき、そこには、太郎次郎と三郎二郎の姿はなかった。
 得意の弓で敵将を三人も射落として、さらに登々呂木澤(トドロキザワ)に戦場を移しての混戦となった中でも太刀を振るって縦横に働き手柄を立てたという三郎二郎の様子が、複数の武者の口から語られた。
 太郎次郎もまた、折からの暴風に視界悪しく敵味方いずれにとっても不利だった登々呂木澤のいくさで、郷ではだれも敵う者がないと言われた薙刀さばきでもって鬼神のように働いたという。このときに深手を負った太郎次郎は、手当を受けてその後半日ほどはなんとか息があったが、そのまま帰らぬ人となったということだった。

 

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