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ラブストーリー

恋の小箱 A

   

*一話ずつのオムニバスになります。

ACT.1:離婚して間もないのに、まだ誰かを好きになる事を拒んでいるはずなのに…。

ACT.2:彼氏も自分も、気持ちが薄れている事に気づいていた。薄れていった訳は、自分でも気づかないようにしてただけ…。

ACT.3:ようやく想いが通じたのに、彼にいきなり身体を求められて…。今の互いの気持ちは、きっと同じじゃない…。

ACT.4:小さい頃から一緒だったからって、母親みたいな世話を焼かれて、苛立っていた。自分が求めている物は、男女の関係なのに…。

・前サイト掲載:お題集物になります。

 

ACT.1

 離婚して間もないのに、人の心ってどうしてこう思考とは別に動き始めるのだろうか。今はまだ人を好きになる事を何処かで拒んでいるはずなのに、そう思いながら俯いた亜紀。
 誰でも良かった訳じゃ無い事は、どんなに自分の心が衰弱していても、分かっているつもりだ。だが、何故10も年下の男に慰められ、あげく貰うはずの無い言葉をもらったのだろうか。
「瞬君か……」
 長谷川瞬、サラリーマン。亜紀が住んでいる部屋の隣りの住人。此処に引っ越してきて、一応挨拶を交わした初日、何となく好印象だったのを覚えていた。体育会系の雰囲気で、言葉もハッキリと話す。きっと初めて会った時から、少しずつ瞬に対する気持ちは膨らんでいたんだろうと、今改めて思う亜紀だった。

 ついさっきまで、この部屋に居た瞬。晩酌を一緒にと瞬が酒を持ってきたのだ。ついつい調子に乗って呷ってしまった結果、亜紀の口から離婚への愚痴ばかりが零れ、涙を溢す事になった。そんな愚痴にも微笑みながら、ずっと話を聞いていた瞬は、亜紀の手からビールの缶を取って「俺の話も聞いて」と笑った。
 その時、一瞬亜紀の酔いが醒める。
「離婚を推奨するわけじゃないけど……。離婚してくれたから、亜紀さんが此処に居る。そして俺は出会えたし……」
「……瞬君?」
「もう忘れて欲しいけど……前の事は。少しでも、俺を見てくれない?」
 スッと身体を寄せた瞬に、亜紀が反射的に身体を退いた。それに気付いて瞬はそのまま身体を戻して笑う。
「少しだけ……時間くれない……?」
 亜紀が俯いたままそう呟くと、瞬は亜紀の頭にポンと手を置いて部屋を出て行った。居なくなった途端急に寂しくなった部屋。離婚話に泣いていたついでなのか、涙がボロボロ零れ出す。そして今一度、瞬の言葉を頭の中で復唱した。
 小さな溜息を吐いて、髪を掻き上げ唇を結んだ亜紀は、ゆっくりと立ち上がって部屋を出た。隣りのドアの前に立つと、ノックをしようとした手が戸惑う。このドアを叩けば、違う人生が始まるかもしれない。それが例え幸であっても不幸であっても。

 もう一度、亜紀は自分に問い掛けた。
 誰でも良かった訳じゃないハズだと。
 誰でも良かった訳じゃない、そう思えた時、いきなりドアが開いて驚いて身体を退いた。
「亜紀さんっ!?」
 瞬きしながら出てきた瞬は、亜紀が何をしているのか首を傾げる。だが伝わる雰囲気に、瞬はそっと腕を伸ばして亜紀の身体を抱き締めた。
「……俺の事……見てくれるのかな……」
「アタシ、おばさんだよ……?しかもバツ一」
「別に。だから、何?」
 ハッキリとそう言われて、瞬の胸に埋めた顔を其処に押し付けた。途端に溢れ出す涙。
「前、見ようよ。前見たら……俺って男いるじゃん」
 冗談交じりのその声に、亜紀が喉で笑った。涙に濡れたまま苦笑して、瞬を見上げた。何か言葉を交わそうとした唇は、何も発せず、自然に寄せ合い重なる。亜紀の腕が瞬の首に巻きつき、縋るように抱きつくと、同じくして瞬の腕が強くなった。
 少し上がった息が、夜の冷たい空気に白く舞い上がる。
「……晩酌、続きしない?」
「うん」
 再び亜紀の部屋に戻った二人は、ビールを呷ろうと手を伸ばしたが、キスの余韻が残りすぎて、伸ばした手は互いの身体に触れ、そのまま瞬は亜紀を抱き、愛した。

 初めて合わせた肌は、熱く蕩けるような感覚。微笑んだ亜紀の顔は、何処か晴れやかだった……。

 

Fin ACT.2へ

 

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