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歴史・時代

眠りの姫

   

【約束】その後。

再会は決して劇的なものではないのです。
望んでも望んでも、あのひとはわたしの元にお戻りにはならなかったというのに。

まどろみの中、あなたは帰ってきてくださった。

そうして、ほほえまれるのです。
目覚めたわたしに向かって。

※カテゴリは歴史となっており、
文化・風習に似た部分がありますが、
全くの別世界のお話としてお読みください。※

 

 夢を、見ました。
 とても懐かしい夢でした。
 目が覚めて、静かに涙を流しました。

「……」

 けれどその涙は決して悲しいものではなくて。
 わたしの心は流した涙によって、すぅっと浄化されたような気がします。

「きのと」

 障子の向こうから、母さまの声が聞こえました。

「はい。ただいま……」

 わたしの隣では、わたしと知莢さまのちいさなお子、かのえが、未だに眠りのなかにたゆたっています。
 終戦を迎えた2ヶ月後。
 かのえは元気な産声を上げました。
 わたしがお腹を痛めて産んだお子は、玉のような、女の子でした。
 それから、1ヶ月。
 みなさまが引き上げ船によって、続々とお帰りになられていますが、知莢さまは未だにわたしの元にお戻りにはなりません。
 終戦前、高等軍人であった知莢さまのお帰りが、ほかの方々よりも遅くなるだろうことは覚悟してはいましたけれど。
 それでも……。
 という不安がわたしの中にあるのも確かです。

「きのと?」
「はい。ただいま」

 ぼんやりとかのえの寝顔を見下ろしながら、詮無いことを考えていたわたしを不安に思ったのか。
 障子の向こうで母さまがわたしを呼んで。
 わたしは夢を見ているのだろう、かのえの丸い額を撫でました。

 

-歴史・時代


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