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ラブストーリー

LOTUS 〜You are my sunshine〜 <後>

   

「ヒナの手、やっぱあったかい」
「真理ちゃんの手はー、いつもちょっと冷たいよねー」
「いいよ、これからはヒナにあっためてもらうから」

LOTUS』 ―光輝×瑠音:真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*2月≫

Illustration:Dite

 

 たとえ会えない日が続いても。
 心はいつも、あなたのそばに。

 悲鳴とも言える姉の呼び声を聞きつけて、光輝が「どうした、姉さん!」と日向子の部屋に飛び込んだとき。日向子は壊れた人形を抱えて、幼な子のように泣きじゃくっていた。
「姉さん、何が…………姉さん?」
「コ、ウ、くんとっ……………………」
 せきあげながら懸命に何かを言おうとするのだが、涙ばかりあふれてきて、うまく言葉にならない。やがて光輝は、シンプルな木綿のタンクトップを着た2体の人形が、目も当てられないほどの損傷を受けていることに気付いた。
「姉さん、姉さんの人形は割れ物だ。そこのチェストから床に落ちれば、壊れることも」
「ち、が……違うのー。違うんだよー。コウくんとルウくんがー、わたしとるーちゃんを助けてくれたんだよー。わたしたちのー、身代わりになってくれたんだよー」
「身代わり?」
「コウくーん、ルウくーん、ごめんねー、ごめんねー。痛かったよねー、ごめんねー」
 ぽろぽろと涙をこぼしながらしゃくりあげる姉の背中をさすってやり、光輝は姉の手から、自分そっくりに作られたコウを預かった。眉をひそめつつ、頭部を除く上半身に無数のヒビが入っているコウを眺め、背部の傷み具合を確認しようと持ち替えたところで、コウの肩から腰までの部分がガシャリと崩れた。陶器にも似た固い破片がバラバラとこぼれ落ち、床で乾いた音を立てた瞬間――光輝の胸に、今度は痛むほどの実感を伴って、「身代わり」という言葉が迫ってきた。
「…………姉さんと瑠音を……助けて、くれたのか」
「そうだよー。そうだったんだよねー。ごめんねー、もっと早く気付いてあげれば良かったねー。コウくんもルウくんもごめんねー」
 日向子はルウを胸に抱き締め、さらに声を上げて泣いている。普段は「汚れるといけないから」と言って、人形たちの顔には決して素手ではふれないのに、今はそんなことも忘れてしまったのか、日向子の涙がルウの顔にかかってしまっている。
 光輝は床に落ちたコウの破片を拾い、もう一度、手に持ったコウを見た。こういうとき、どうしたら良いのかわからないが、いつも姉がそうしているようにそっと抱き締めてみる。ほかの誰も信じなくても、自分だけは、姉の言った「身代わり」という言葉が信じられるような気がした。
「…………ありがとう」
 小さな、けれどたしかな感謝の言葉が、コウの胸に届く。
 まだ私服に着替える前だった光輝は、制服のポケットから洗いざらしたハンカチを取り出して泣きやまない姉に手渡し、今度はルウに手を伸ばした。
「ありがとう。ルウ」
 コウと同じように胸に抱き締め、姉と瑠音を守ってくれたことを心から感謝する。その瞬間、小さい頃の瑠音に良く似た笑い声が聞こえたような気がして、光輝はふっと口もとをゆるめた。
「コウくん、ルウくん、すぐにドール工房さんに電話してー、体を直してもらうからねー。もうちょっと待っててねー」
 涙も拭わずにコウに頬ずりをして、工房の電話番号を調べようと、机の引き出しを開ける。すると、2階の騒ぎを聞きつけて、亜紀子が階段をのぼってきた。
「さっきからどうしたの、あなたたち。ケンカでもしてるの?」
「あっ、お母さーん。見てー、コウくんとルウくんがー」
「あら、いやだ、どうしたの。落っことしちゃったの?」
「違うのー。あのねー、コウくんとルウくんがねー」

 

-ラブストーリー

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