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歴史・時代

東京探偵小町 第十五話「青い小鳥」 <3>

   

「鳥を下に連れてくンなッて、なんべん言ったらわかるンだ」
「だって、セイランがついて来たがるんだもの」
「大将が籠から出さなきゃ済む話だろうが。そうやって好きに連れ回してっと、そのうちどっかの隙間から逃げちまうぞ」

小説版『東京探偵小町
第五部 ―従僕編―

Illustration:Dite

 

 蒼馬が名付け親となった異国の青い小鳥は、それから十日ほどで元気を取り戻し、シャム製の鳥籠のなかから美しい歌声を聞かせるようになった。
 その合間に時枝が手づから汲んできた水を飲み、和豪が用意する粟粒と冬菜の切れ端をついばんで、傍から見る分には日々機嫌良く過ごしている。ただ、やはり寒さには弱いのか、帝都に今冬二度目となる大雪が降った日は、羽を膨らませて始終じっとしていた。
「だァから、大将」
 二階から「お帰りなさい」を言うために降りてきた時枝の肩に、今日も今日とて青藍がとまっているのを見て、和豪が「ただいま」を言うより早く咎めにかかった。外は小雪まじりなのか、道場の夜稽古から帰った和豪の洋套には、少し白いものがついていた。
「鳥を下に連れてくンなッて、なんべん言ったらわかるンだ」
「だって、セイランがついて来たがるんだもの」
「大将が籠から出さなきゃ済む話だろうが。そうやって好きに連れ回してっと、そのうちどっかの隙間から逃げちまうぞ」
「大丈夫よ。ね、セイラン」
 肩の小鳥にそう言ってみせれば、小鳥はそうだと言わんばかりに、和豪の頭上に飛び移る。時枝はクスクスと笑いながら和豪の洋套の雪を払い、それを事務室のコート掛けに掛けて、和豪の帰宅を倫太郎に告げた。台所で遅い夕食の支度にかかっていた倫太郎が、廊下に顔を出して和豪をねぎらうと、青藍は今度は倫太郎の腕に移り、ひと声鳴いてから再び時枝の肩に戻った。
「お嬢さん、そろそろ僕たちも夕飯にしましょう。青藍を鳥籠に」
「はーい」
 たまにやってくる銀猫には困り顔の倫太郎や和豪も、青藍は気に入ったらしく、時枝が鳥籠から出して階下に連れてきても、結局は許してしまう。青藍もこの二青年が気に入っているのか、警戒するどころか、みずから寄って行くほどだった。
 もともと誰かの飼い鳥だったのか、それとも人間を恐れない性質なのか、青藍は九段坂探偵事務所を訪れる人々に良く懐き、最近では「サタジットのシタールに合わせて囀る」という芸当までやってのけている。それがまた、皆からかわいがられる要因になっているのだろう。ただ、食事時と仕事絡みの来客があるときは、時枝の自室にある鳥籠に戻すよう徹底しているのだった。
「待っててね、セイランを戻したらすぐに降りてくるわ」
「そういや、大将」
「なあに?」
「柏田のお兄ィさん、次の日曜、やっぱり難しいってよ。道源寺のオッサンもな」
「ええっ、そうなの? 残念だわ…………」
 今度の日曜は、時枝の提案で上海式の新年会を催すことになっていた。多すぎるほどのお年玉をもらった礼を兼ねて、道源寺と柏田にも招待状を出してあるのだが、生憎と日曜日は手が空かないのだという。
 このところの不景気と政治熱の高まりで、最近の帝都では民衆によるデモ行進が多く、少々落ち着きをなくしていた。失業者対策は政府による施米などの救援事業では追いつかず、職を求めて郡部へ転出する者も少なくない。一家を挙げて上京してきたものは、帝都を去るときもまた一家全員となるため、小学校の教室がガラ空きになる区もあるほどだった。
「道源寺のおじさまと柏田さんにも、胡麻あんのお団子をごちそうしてあげたかったのに」

 

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