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SF・ファンタジー・ホラー

我が主君!!【23】

   

※作品中にガールズラブ的展開があります※

野平五郎は、藍子たちの味方になることを決心する。
八人に増えた一行は、陽子の提案で、まずは女鎧を手に入れ、その後、敵の本陣へ向かうことにする。
その道々、鴇子は三郎兵衛と五郎に「なんの食べものが好き?」と問いかけ、束の間、緊張感のない会話を楽しむ…。

 

 苦しげな表情で目を伏せていた野平五郎が、覚悟を決めたように顔を上げた。
「こうなったうえは、わしも御曹司にお味方しよう。もはや、わしには、自ら欲するところの戦う目的はない」
「待て!」
 三郎兵衛が声をあげた。
「まあ待て、野平どの。おぬしの覚悟は立派だが、戦う目的がないというのはおかしなものじゃ。そんなことではいくさの場にてあっという間に死んでしまうぞ」
 それを聞いた陽子が、「一理あるわね」とうなずいた。
「ねえ、五郎さんは、歌のこと以外には、前の生で成し遂げられなかったことへの悔しさってないの? わたしはものすごくあったわよ。愛した男と幸せになれなくて、それどころかの彼の最期すら見届けられないし、ホント前世はさんざんだった。だから根性で転生したわ。今度こそ自分の望みを叶えてやるわ!っていうエネルギーでね」
「しかも、それで本当に望みを叶えたというのがすごいわよね。――陽子サンは現世で、木曾冠者の魂を持つ男性と、今度結婚する――婚礼を挙げるのですって」
 紅子の言葉の後半は、五郎に向けられていた。
 ふっと、五郎は表情をゆるめた。そして陽子に向かって、「それはなによりだ。めでたいな」と言った。
「わし自身にはもう戦う目的はないが、巻き込まれておられる御曹司や、御曹司を支える悪若四天王や、今生でこそ幸せになりたいと願うそなたのことを守るために戦うというのは、やはり悪くないな。味方させてくれ」
 紅子がほほえんで、
「それはもちろん、五郎どののような人が味方になってくれるなら、これほど心強いことはないわ。わたしたちは、武藤右馬允の背後に、さらに糸を引いている別の人物がいると考えているの。最終的にだれと対峙することになるか分からないからこそ、信頼に足る味方がいるのはうれしいわ」
 言った紅子の顔を、五郎は寸時、見つめた。
 そして、言った。
「――されば、迷わぬ。今より、御曹司の敵がわしの敵だ」
 陽子が真剣な表情で口を開いた。
「さて。そうしたら仕切り直して、八人で一緒に、わたしの見つけた女鎧のところへいくとしましょう」
 「そのあとは?」と、鴇子。
「鎧を手に入れたら、三郎兵衛さんと五郎さんに案内してもらって、武藤右馬允とやらのところへ向かうのでどう?」
 「いいと思う」と、香子が賛同した。藍子も、
「そうね。いつまでもこの世界にいたくはないし。早いところ黒幕を突き止めて、倒して、さっさともといた世界に戻りたいわ」
 「わたしも」と鴇子が言った。
「おなかはすかないけど、なんかもうここ飽きてきた。早くおうち帰って、チーズケーキ食べながら紅茶飲みたい」
「ちょっと鴇子、やめてよ。食べものの話なんかしたら食べたくなるじゃない」
「だから早く帰ろうよ」
 眉根を寄せてそう言った鴇子の細い肩をサッと抱いて、紅子が「分かったわ」と年若い末妹に語りかける。
「鴇子は、こっちにきてからずっとがんばってるものね。あっちに戻ったら、フルールで好きなだけケーキ買ってあげる」
 お気に入りの洋菓子店の名前を出されて、鴇子は瞳を輝かせる。
「ほんと、紅ちゃん!?」
「ええ」
「やったぁ!」
 姉妹のやりとりを見ていた三郎兵衛が、隣にいる香子に、「“けーき”とはなんじゃ?」と、気の抜けた質問をした。
「ええと……、平安時代の食べものしか知らない人に説明するのはすごく難しいんだけど……、要するに、甘くておいしい食べものよ。西洋由来の菓子。ちなみに食事じゃなくて、気が向いたときに食べる間食ね」
「そんな説明では分からんぞ」
「でもたぶん詳しく説明してもどんどん分からなくなってくだけだから、知りたければ一度あっちの世界に食べにくるといいよ。百聞は一見にしかずって言うじゃない。あたしがごちそうするから」
「……ふむ」
 二人の様子を、そばで、藍子とみちるがおもしろそうに眺めていた。

 

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