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ラブストーリー

LOTUS 〜Java Sparrow Cinnamon〜

   

「シナモン文鳥にシナモンは、あまりに安易だ」
「そう、かな。やっぱり」
「番号で呼ぶのと同じレベルだ。もう少し、考えたほうがい」

LOTUS』 ―光輝×瑠音:真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 3月3日、桃の節句。
 その日は、日向子たちが通う女学院の卒業式だった。胸に本物の白薔薇をつけて式典に臨んだ少女たちの顔はいずれも晴れやかで、教師陣と数名のシスター、在校生、貴賓席に座るOGたちは、今日この佳き日に学び舎を巣立っていく最上級生たちを拍手と笑顔で見送った。保護者たちは立派に成長した愛娘の姿に目をうるませ、卒業していく当人たちも、日向子をはじめ、その9割近くがハンカチを湿らせていた。
「いい卒業式ね、あっちゃん。あたし、ちょっと感動しちゃった」
「わたしもよ。あ、ほら、さっちゃん」
「わかってるわ。任せておいて、バッチリ撮るから」
 久々のフォーマルに身を包んだ亜紀子と佐紀子が小声で囁き合うなか、いかにもカトリック系らしい歌詞の校歌が流れ、卒業生一同が講堂からしずしずと退場した。在校生たちがクラス毎に割り当てられた式場の後片付けに取り掛かるなか、亜紀子たちは、日向子や真理の倍は興奮した面持ちで保護者用の控え室に移った。
「さーて、本日のアタクシの腕前は…………」
「さっちゃん、あとでいいわよ」
「だめだめ、こういうのはすぐにチェックしないと」
 3年3組の保護者が案内されたのは、講堂からほど近い、年季の入った音楽室だった。懐かしいような匂いのする音楽室に入るや、佐紀子がみずからが撮ったデジカメ写真のチェックを始める。その横で、亜紀子は音楽室の窓から見える聖堂を眺めていた。
 女学院のシンボルでもある聖堂は、大正の大地震や昭和の戦禍を乗り越えて今日まで生徒たちを見守ってきた歴史ある建築物であり、文化財にも指定されている。キリスト教に縁があったわけではないのだが、亜紀子の愛娘はここで良き師・良き友に恵まれ、かけがえのない素晴らしい高校生活を送ることができたようだった。
「あっちゃん、見て! これなんか、すごく良く撮れてるでしょ」
 懸命にデジカメを操作していた佐紀子が、撮れた写真を亜紀子に見せる。妹の手元を覗き込み、やがて亜紀子も顔をほころばせた。
「あら、いいじゃない。日向子も真理さんも嬉しそうで」
「でしょう? あとで瑠音と貴幸さんにも見せてあげなくっちゃ」
「そうだわ、校門の前でも撮ってあげて。できれば聖堂の前でも」
「もっちろん。撮った写真、あとでフォトブックにしてあげるわね。2000円くらいで、ちょっとした写真集みたいになるのよ。ほんと、最近はいろいろと便利になったわよねぇ」
 うなずいて同意を示すと、亜紀子は改めて妹に向き直り、忙しいスケジュールの合間を縫って、昼過ぎまでの時間を確保してくれた礼を述べた。実は佐紀子は、日向子の叔母としてではなく、真理の後見人として女学院の卒業式にやって来ている。真理の父親は、真理の話によると、式典への出席はおろか、「卒業おめでとう」のひとことさえもないようだった。
 女学院の入学式と卒業式は、毎年、多くの保護者が出席することで知られている。特に高校生活の集大成である卒業式は、愛娘の成長ぶりをこの目にしっかりと焼き付けておきたいという親心からか、「両親揃って」という例が珍しくないどころか、むしろ一般的である。そんななか、真理ひとりだけ、誰も来てくれる人がいないのだ。真理の後見人には養護教諭の吉岡新菜も名を連ねているが、彼女は女学院側の人間であるため、「出席者」の勘定に入らないのである。
 真理は「父にも仕事があるでしょうし、わたくしももう子供ではありませんから」と笑っていたが、晴れの門出に誰も来てくれないのはやはり寂しいだろうと、亜紀子が気を利かせたのである。相談を受けた佐紀子はふたつ返事で引き受け、「サプライズ出席っていうことで、当日までマリちゃんには絶対内緒よ」と茶目っ気を出し、今日は現役ファッションモデルらしい華やかな装いでやって来て、真理を感激させたのだった。

 

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