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朽ちる Peridot

   

菖蒲日向が教育実習の場として選んだのは、自分の母校でもある蘭華女学園高等学校

日向はそこでかけがえのない親友と出会うことになる
だけれどまだ恋に恋をする少女時代の彼女に、親友にBFができるということは自分の価値が下がってしまうような疎外感

母校にはそんな苦い思い出もあったのだけれど、またそこで新たな出会いをすることになる

※同性愛要素が含まれています

 

第1章 汚らわしい

 汚い――
 汚い――
 き・た・な・い――

 私は皮膚が一枚剥けるくらいの勢いで、身体を必死に擦って洗う。

 ソープの泡を流して、また洗う。

 次第にシャワーの水圧が沁みて痛い。

 鏡に映る私の身体。

 赤く染まっていく――血の滲みと皮膚の腫れ。

 そこまで追い込むと、私は気が済んで風呂から出た。

 痛みつけた肌の手入れを念入りにして、手本通りに包帯を巻いていく。

 なるべく肌を露出しないよう、寝る時までも気を配り、やっとベッドの中に入れたのは、帰宅してから随分と時間が経過していた。

 ――ひとつの恋が終わった夜。

 それはまるで、儀式のように――

 私は繰り返す。

 それがたまたま、明日から二回目の教育実習がはじまる時だっただけのこと。

 気にしないわ――

◇◇◇◇◇

「菖蒲(あやめ)先生――」

 肩に触れられるまで、私は自分が呼ばれていることに、気づかなかった。

「ああ、ごめんなさい。なんか、先生って呼ばれるのに、慣れていなくて」

「クスッ……実習の先生は皆さん、そう仰られるのね。でも、菖蒲先生は、この学校の卒業生なのでしょう? ねえ、良かったらお茶しながら、昔の話を聞かせてくれません?」

 ちょうど、ネタ不足の時に助かったわと、実習初日に声をかけてきた生徒。

 新聞部の子は、今も昔も変わらないのだと、私はおかしくなってつい笑ってしまった。

 この笑いが緊張を解く形となって、今日で三日目だというのに、生徒とのコミュニケーションは順調。

 年頃の女の子との会話は、心が和んでいく。

「いいのかしら、私の話で。この学校の新聞って、昔からちょっとグレードが高いのよ」

「知っています! 確か△△テレビの女性ニュースキャスターは、この学校の新聞部OBだと、聞いていますわ」

「そうね。私が在学中の時で既に人気を得ていた、尊敬する先輩よ」

 ――蘭華女学園高等学校、明治初期に設立された、由緒正しき歴史ある学園。

 一時は共学であったこともあるようだけれど、私がここに憧れていた頃には女子高として名高かった。

 家柄に関係なく、平等に受け入れをしてくれるこの学園からは、各々著名人も多々送り出している。

 我が子もと憧れる親や子が全国から集まり、学校と契約を結びたがる不動産も多いとか。

 寄宿舎がないわけではないけれど、全員が全員入れる程の部屋数がなく、一部の生徒は一般のアパートやマンション、もしくは親戚知人宅に居候をしている。

 私は運良く寄宿舎に入れていたのだけれど――

 気持ちが高校生に戻りかけた頃、また私は何度も名前を呼ばれていることに、気付いた。

「ごめんなさい、本当に」

「いいえ。こちらこそ、慣れない実習期間に余計なことをお願いしているのですから」

「生徒が気遣いなんて、いいのよ。じゃあ、行きましょうか……菜摘さん」

 私が一歩を踏み出すと、菜摘さんは嬉しそうに後に従って付いてきた。

 名前を覚えてもらって呼ばれる喜びを知っている子。

 私はまた少し、高校生の頃を思い出しかけていた。

 入学して間もない頃、はじめて私の名前を呼んでくれた、あの方を――

 

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